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3 魔法の気配
「だが、その神様が負けるようなやつが、この国のどこかにいるってことだよな」
「そういうこったなあ」
笑い合ってたそのままの表情で、アランの言葉にトーヤが答えた。
ミーヤはとても笑ってなどいられない。
「あの、そのシャンタルが負けるような方というのは、一体どんな方なのでしょう」
「全く分からん」
トーヤがまだ顔だけは笑ったままそういうので、ミーヤは少しムッとした。
「冗談ではないのですよ?」
「ああ、もちろん冗談じゃねえ」
「まあ、そうですね」
ミーヤの言葉にトーヤだけではなくアランも笑いながらそう言った。
「けど、どんな顔しててもなるようにしかならねえからな」
「そういうことです」
そう言われてしまうとミーヤはもう何も言えなくなってしまった。
「そうですね、確かに」
「だからまあ、あんたもそんな顔しねえで笑ってくれよ」
「分かりました」
さすがに自分も笑うことなどできないが、ミーヤも納得するしかない。
「それがどんなやつなのかは分からんが、あの光が恐れてたやつじゃねえかなとは思う」
「俺もそう思ってた」
トーヤとアランの見解は一致しているらしい。
「もしかしたら、俺らはすでにそいつの手の内にいるのかも知れない」
「そして、そいつはシャンタルが力を使うのを待ってたのかもな」
「えっ、どうしてですか?」
「あの光が言ってただろうが、見つかるって」
確かに言っていた。
あの光が何度も言っていたことだ。
「時がない、自分の力は弱っている、見つかる、そう何回も言ってた。そのために、できるだけ見つからないように、あんな細切れで場ってのが落ち着くまで話せなかった、そう言ってた」
「ああ、そして、恐らく次が最後だとも言ってたな」
「言ってた」
「ってことは、そいつはシャンタルを見つけちまった、てことになるのか」
「そうなるか」
「だとしたら、それはなんでだ?」
「八年前と一緒だとしたら、おそらく、自分があいつの力ってのを取り込むためだろうさ」
ミーヤはトーヤとアランが話しながら考えをまとめているのをじっと聞いていた。
「シャンタルが力を使ったのは、この国に来て初めてか?」
アランの問いにトーヤが少し考えるが、
「いや、使ってた。洞窟で灯りを出してた」
「ああ、あれか」
「おそらく、ここから逃げ出してすぐ、あの洞窟を通る時から出してたはずだ」
「そうだな」
「あの、灯りって?」
「ああ、シャンタルが使える魔法の一つで、松明代わりに小さい灯りを出せるんだよ」
「そんなことまでできるのですか!」
「いや、こっちの方が対した魔法じゃないです」
アランがそう説明してくれた。
「これは魔法使いが修行の割りと最初の方に習う魔法らしいです」
「ああ、もうちょっと魔法使いらしいこと習っとけって、あっちの魔法使いのところで習った魔法の一つだな」
「そうなんですか」
「ああ」
今日初めて魔法というものに触れたミーヤには、驚くことばかりだ。
「その魔法と今日使った魔法が全く一緒かどうかは分からん。だが、その時には何もなかった」
「そういうことだな」
「ってことは、もしかしたらそいつはこの宮の中にいるのかも知れん」
「この宮の中にですか!」
そんなことがあるのだろうか。
「それも分からん。だが、そういう可能性がある」
「もしも、そいつが灯りの魔法はアルディナの魔法として反応しなかった、いや、できなかったとしたら、宮の外にいる可能性もある。だが、俺は宮の中じゃないかと思う」
「いつものトーヤの勘か?」
「いや、それだけじゃない」
トーヤはアランとミーヤに「マユリアの海」の沖で経験したことを話した。
「ってことでな、そいつは確かに湖の底で感じたのと同じ気配だったってことだ。そして俺を邪魔だとして排除しようとした」
「排除って」
「殺そうとしたってこった」
トーヤからはっきりとした言葉を聞いてミーヤは息を飲んだ。
「それにマユリアの気配があったなんて、とても信じられません」
ミーヤが呆然として首を振るのに、トーヤは洞窟の中でベルに言われたことを思い出していた。
『じゃあ、ミーヤさんでも?』
思い出して、そのまま封印をした。
今は心を揺らしている場合ではない。
そうだ、何もなかったように笑え。
「あのな、相手が誰でも疑ってかからないと本当のことは見えなくなるんだ」
トーヤはどうしようもない、という表情で少し笑ってそう言う。
「俺は、その後、洞窟でシャンタルとベルと話していて、そいつの姿が見えた気がした」
「それは誰なんだ?」
「それはな」
トーヤは少しだけ言葉を止めてから、思い切ったように言う。
「マユリアの中にいるやつだ」
「ええっ!」
さすがにミーヤが大きな声を出し、
「ありえません、そんなこと!」
と、首を思い切り振って否定する。
「落ち着け」
「ですが!」
「いいから落ち着いて聞いてくれ」
トーヤはミーヤを落ち着かせ、ゆっくりと続きを口にする。
「俺はマユリアだとは言ってない。マユリアの中にいる誰かだと言ってる」
そう言われてもミーヤにとってはマユリアはマユリアだ。信じたくない、その気持ちを表すように、言葉もなくふるふると左右に首を振る。
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