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4 中にいるもの
「マユリアの中にいる誰か」
ミーヤがトーヤの言葉を受け入れられず、ふるふると力なく首を振るばかりの横で、アランが冷静にトーヤの言葉の意味を考えている。
「ってことは、トーヤはマユリアが誰かに乗っ取られてるって考えてるのか?」
「いや、それも違う」
トーヤがアランの言葉に答え、ミーヤも顔をトーヤに向けた。
「こっちに帰ってきてから見たマユリアは、前と同じだった。他の誰かみたいには思えなかった」
「もちろんです」
ミーヤがしっかりと頷く。
「私はシャンタルとトーヤがあちらに行った後も、マユリアとお話しさせていただいていました。でもずっとあのまま、お変わりのないマユリアのままでした今もそうです。そしてリルやダルももちろんそのことを知っています。キリエ様だって――」
「ちょっと待てって」
マユリア弁護のために次々に話し続けるミーヤをトーヤが止める。
「あんたの気持ちは分かる。それに俺だって言ってるだろ、マユリアは変わってねえって」
「それはそうですが」
「とりあえず落ち着いて話の続きを聞いてくれ。あんたの言い分は聞かなくても分かるが、聞いてほしかったら後で聞く」
「分かりました」
ミーヤが不服な顔をしながら、それでもそう言って言葉を止めた。
その少しすねたようなふくれたような顔、少しだけ唇をギュッとつぶり、口角をやや下げてちょっとだけ上目遣いにこちらを見る目、何度も見て、何年もの間見たいと思っていた顔だったと、トーヤが思わず頬を緩ませた。
「なんなんですか?」
「いや、別に」
「言いたいことがあるならおっしゃってください」
「なんもねえって」
「ありそうですけどね」
「いや、ねえって」
トーヤがうれしそうにそう言って、それにミーヤが不審そうに、だがやっぱりこちらもなんとなく楽しそうにやり取りをしている。
(俺は一体何を見せられてんだよ)
アランが心の中でそう思いながら、表情には出さず、
「まあ、とりあえずトーヤの言い分を聞いてみませんか、言いたいことがあるならそれからってことで。何しろ大事なことだし」
と、隊長出動でそう言うと、ミーヤも分かりましたと口を閉じた。
「分かった、話を戻すぞ」
「ああ、ほんとに、頼むぜ」
アランはちょっと皮肉を込めた口調でそう言ったのだが、トーヤはそれを感じているのかいないのか、アランをチラッと見て知らん顔で話を始めた。
「これもあの光が言ったことだ、覚えてるか、最後に言ったこと」
「最後に言ったこと、ですか」
「最後に、なんだったかな」
「あの、もしかして」
ミーヤが何かを思い出したように顔を曇らせる。
「思い出したか?」
「マユリアを、助けてください、それでしょうか」
「ああ、それだ」
「確かに言ってたな」
「言ってただろ」
ミーヤもアランもしっかりと思い出す。
「ずっとそれが引っかかってた。敵が誰かは言えないと言いながらはっきりとそう言って、その後で俺たちが真実に気がついた時にもう一度会える、そう言ってた」
「確かにそうでした」
「そうだったな」
「覚えてるだろ? そんな大事なことを、消える直前についでみたいに」
「確かに最後に急いでぶち込むようにそう言ってったな」
「つまり、それが真実ってやつにつながってる、そう思えねえか?」
言われてみると確かにそんな感じがする。
「あの時はそれだけでは一体なんのことだか分からなかった。けど、あの海の上のことと、今度のシャンタルのことでなんとなくつながった気がした」
「どうつながったんでしょう」
「まずはあの気配だ。間違いなく、八年前にシャンタルを引っ張ったやつだ」
「それがマユリアだって言うんですか?」
またミーヤが受け入れられないという顔になる。
「間違いない。なんでかってとな、シャンタルがそう言ってる」
「ええっ!」
「シャンタルがそう言ったのか?」
「ああ、洞窟の中でシャンタルとベルに沖でのことを話してて、あの時引っ張ったやつの手が誰の手か思い出せ、そう言ったら間違いないとさ」
「そんな……」
ミーヤが泣きそうな顔になる。
「そんな顔すんなって、まだマユリアだって決まったわけじゃねえからよ」
「でもシャンタルがマユリアに引っ張られた、そう言ってんだろ?」
「だからって、それがマユリアと決まったこっちゃないだろうが」
「なんか、よう分からんな」
アランがトーヤの言い分に眉を寄せた。
「俺はマユリアを信用してる。なんでかってと、それがさっきの光の言葉だ。もしもマユリアがあいつに何かやろうとしてたら、光はマユリアを助けてくれなんぞ言わんだろう」
「それは確かに」
トーヤの言葉にアランも頷き、ミーヤがホッとした顔になる。
「けどマユリアがシャンタルを引っ張った、それも事実だ。そして俺のことを多分同じやつが襲ってきた。ってことは、誰かか何かがいるんだよ、マユリアの中に。それが今までのことを見てきた俺の結論だ。もちろん、絶対にそれが正しいというわけじゃねえ、今の段階でそれなら辻褄が合う、そういうこった」
トーヤの出した結論にアランも少し考えて、
「なるほどな、そういう可能性もないことないな」
と、受け入れた。
ミーヤはやはりまだ受け入れられないという顔でじっと黙ってしまった。
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