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 その世界は滅ぶかもしれない世界だった。  だから、様々な人々が奔走していた。  世界中の人を死なせないために、命をつなぐために。  多くの者達が、希望を求め、運命に抗っていた。  けれど、彼等の努力はむなしく、散った。  ほどなくして、世界は滅亡してしまう。  しかし、そんな者達を助ける船があった。  それはとある職人たちが作り出した箱舟。  二人の青年と、二人の女性が、作り上げた箱舟。  神話の世界から下って来た、かけらを編みこんで作り上げた救命船。  世界崩壊のまさにその渦中で、完成した箱舟。  その船は、痛めつけられた世界の中、まだ無事であるものを集めていった。  それらは、わずかばかりの命達だったが、確かに望みはつながれた。  やがて箱舟は、崩壊する世界に背を向けて旅立った。  そこで築かれた歴史も、長く続いた営みも、誰の心にもある思い出にも、すべて背を向けて。  やがて箱舟はどこか別の、小さな世界に降り立った。  けれども急ごしらえの完成品である船は、その瞬間に壊れてしまう。  すると、箱舟にのせられていた者達が外へ零れ落ちてしまった。  故郷で痛めつけられたまま、満足に修復されないままの魂達が。  彼等は、大事な何かを欠損させたまま、輪廻転生の輪に組み込まれていく。  時に笑いあい、時に助け合いながらも、最終的には破滅していきながら。  彼等の魂に救いはない。  箱舟をなおし、その船の中で魂を癒さない限りは。
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