9人が本棚に入れています
本棚に追加
終劇
「ごめん、それは契約違反になる」
「でも、改めて付き合うことには悪気はないわ。お願いします。レンタルなんて格式に縛られたくないんです」
何度か彼に申し込んでいったが、今の状態で恋人になることはできないと答えてきた。たしかに契約書にはレンタル期間が終了した時点で、赤の他人にならなければいけないという規約が書いてある。
「悪気はないよ。けれど、規則は規則。僕も離れたくないけど、こればかりは何も手を出すことなどできない。本当にごめんなさい」
そしてレンタル期間が終了する当日の朝。
一緒に最後の朝食を終え、彼が支度を整えて玄関に向かい、靴を履いていると振り向いてこう告げてきた。
「一ヶ月間一緒にいてくれて楽しかった。たくさん話もできたし、これからも僕のことを応援していってほしい。約束、してくれますか?」
「はい。私こそありがとうございました。ずっと……ずっと応援していきます」
彼は手を出してきて握手を交わし、ドアの向かうへと行くと、またいつもの日常が戻った。
一緒にいた温もりを残して去っていった彼。
それでも私は、これからの二人を信じていこうとあの日に掴む事ができたぬいぐるみを抱きしめて、何度も心の中で感謝の気持ちを言い続けていった。
レンタルなんて言葉、あれは仮の姿だったのかもしれない。それでも十分愛を感じていた。
やがて、ちらほらと秋風が音を立てて私をまとってきた。
《了》
最初のコメントを投稿しよう!