後編

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後編

   ひと気のない廊下の窓辺で、一組の若い男女が笑みを浮かべて立ち話をしている。  そして……なぜかわたしはその光景を柱の陰からじっと見ていた。  キャシーたちの「行っちゃいなさいよ」を、リズがこんなに素早く実行に移すなんて、と思いながら。    ◇  ◇  ◇  あの翌日から、国王陛下ご夫妻は近郊のお城に一週間ほど滞在されることになり、王妃さまの随行は先輩方が担当し、わたしたち若輩四人組は留守番を仰せつかった。  実質お休みをもらったようなもので、朝からちょっとした雑務をこなせば、後は自由に過ごせるという楽ちんな日々が始まった。  わたし以外の三人は、その〝ちょっとした雑務〟すらやる気が湧いてこなくなったようで、「優しいセシリーがいてくれて助かるわあー」などと言いながら、わたしが王妃さま宛てに届いた書簡の整理や身の回りのお品の手入れをしている傍らで、おしゃべりに興じるのが午前の日課となった。  やるべきことを片づけてしまえばあの三人と一緒にいる必要はないので、わたしはできるだけ素早く雑務を済ませ、その後は図書室で本を読んだり、庭園を散歩したりと、一人の時間を満喫している。  多くの廷臣や召使いたちも陛下たちについていったので、王宮のどこへ行っても人が少なくてゆったり過ごせて快適だ。  ギャラリーにかかっている絵画もじっくり鑑賞できそうだと思いつき、わくわくしながら廊下を歩いていると、若い男女が立ち止まって話をしているのが目に映った。  どうしてなのか自分でも分からないけど、それがエドワードとリズだと気づいたとたん、わたしはとっさに柱の陰に身を隠してしまった。
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