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赤傘のてっぺんがとどろき小学校の方向をさす。
「女の子を見かけませんでしたか。ヒイロという名の」
幼稚園の子くらいの背をしているのに、相手の話し方は大人みたいに丁寧で、まるで会社の人と電話しているときの母さんみたいだった。
「あなたより背高で、髪のひとふさが赤く染まっている子なんですけどね」
颯太は口をぽかんとあけた。もう少しで傘を取り落とすところだった。だって、背筋をまっすぐに伸ばしてこちらを見つめる瞳、白いシャツに紺色の長ズボン、しゃれた編み上げの長靴を履いたその主は――黒猫だったんだから。
「な、長靴を履いた猫が、しゃべってる」
「失敬な」
とたんに黒猫はぴいんとヒゲをはった。
「猫だって、長靴くらい履きますよ。特に雨の日はね」
「へえ。そうなんだ」
ずいぶん猫がえらそうなので、颯太は言葉につまってしまう。そういうものだろうか。
「それに人間の男の子に、なにかをたずねちゃまずいんですかねぇ」
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