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僕は社長に拾われた恩がある。
就活に失敗した。「デザイン専門学校卒、無職」という手に職をつけにいくはずの専門学校卒で就職先がないという一番やってはいけないタブーを犯していた。親からはとうに見放されている。
就職率100%を謳いたい学校側からは邪険にさえ、コンビニパートでも良いから働いてくれと何度も言われた。僕はこのデザインの業界に興味はあったが、入ることさえ叶わないところだったのだ。ヤケになった僕が入ったお好み焼き屋で、たまたま隣に座った社長が僕が落としたポートフォリオを見たのが、この会社に勤めるきっかけだった。就活用に僕の制作実例を100ページにまとめた厚い冊子だった。
「そのポートフォリオはセンスがないんだな」
誰もが言えなかったこと、言われても僕が直せなかったことを社長はお好み焼き屋のソースを鉛筆代わり、鉄板をノート代わりにどんどんと修正案を出してくれた。僕は翌日、社長から貰った名刺に連絡して直したポートフォリオを見てもらい、無事に就職させてもらえたというわけだ。
(あのとき未熟な僕を拾ってくれた社長に恩返しがしたい)
だから、オペレーターとしては満足にやり取りをしたい。
「おい木之下〜! 見たかあの3番目のねーちゃん。ナイスバディだったぞ!」
社長はもう既に胡蝶蘭の浮かべられた南国カクテルで顔が真っ赤だ。ハワイで完全に浮かれている。
......例え、普段がポンコツのポンでも僕はこの恩がある限り社長と会社のために働きたい。......うん、多分。
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