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第五章 ノスタラジア
列車が鳴らす汽笛を静かに聴いていると、固いセキュリティーに守られたスカイマークステーションの玄関口からちょうど右隣に暗闇を見つけた。
まるでどこか別の世界に通じているような‘路地裏‘であることに気がついた。
ふらつき始めた足は路地裏へと歩き始めた。
脳は一切指令を出していない。
いわゆる‘反射‘そのものだった。
別に操り人形のように何者かにコントロールされている訳ではない。
あくまでも自分の意志の中で動いている、だが体が思考よりも早く動いた。
引っ張られるように足を動かさた結果、路地裏の手前で足を止めた。
路地裏には街灯一つもなく、先に何があるのかもわからない。
仮に実咲がこの道を通って公園に行ったとしたら・・・
そう考える前に、果たして実咲の性格上この路地裏を前進したのかという疑問が生まれた。
答えは「YES」だった。
好奇心のある彼は好んでこの道を歩くだろう。
「雅人?駅はこっちだぞ?」
実咲は路地裏に入ろうとする雅人に声をかけた。
「ごめん、先帰ってて」
俺に実咲にかまっている余裕はなかった。
「明日、また公園で」
いつも歌の練習をしている場所を伝えて、すぐに路地裏に足を踏み入れた。
明かり一つない路地裏では目は頼りにならなかった。
ただ。ただ前に足を進めていると、自分の白い息が見えた。
前の方にかすかな明かりが見えたのだ。
「雅人さん」
まるで自分を呼ぶ声が聞こえるかのようだった。
俺は一度息をするのを止め、ただ目に映る一点の光に集中した。
その光は本当に綺麗だった。白くも黒くも赤くも見える。
足を一歩、そしてまた一歩進めた。
ー実咲と優菜がこの世界にいればー
いれば・・・どうなるかはわからなかった。ただこの二人の名前を上げれば自分の人生は全て語れてしまう。それでも二人がいなかった人生の長い時を知りたかった。
荒い息を漏らしながら俺は走った。
目をかすめ、抱く思いを全て捨てるかのように息を吐いた。
そうすると、気づいた頃には既に路地裏を抜けていた。
雅人は驚きのあまり、立ち尽くしてしまった。そこには実咲が話してくれた通りの公園があったのだ。
ここで実咲と出会ったのか・・・?
本当に見覚えのない場所だった。公園は崖の淵に立つフェンスに囲まれており、敷地内には大きな一つのブランコと、海を向いている屋根付きのベンチ。
フェンスの向こうには海が無限大に広がっていた。
しばらく、ぼーっとしていると目が覚めるような列車の汽笛が響いた。
俺はもう一歩足を進めると、スカイマークステーションが見えた。
さらに二回目の汽笛が鳴ると列車は駅の構内から宇宙に向け発車した。
俺はさらに三歩ほど前に足を進め、宇宙へと飛び立つ列車を眺めた。列車の行く果てには少しばかり欠けた月が浮かんでいた。
月から溢れ出す光は列車を照らし、公園にポツンと一人立つ雅人にも影を付けた。
俺は一瞬頭痛のようなめまいのようなものを感じた。
俺は段々と遠くなる列車を眺めながら息を大きく吸い吐いた。
そして一つの事を思い出した。
それは自分の故郷の事だった。
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