第七章 星を超えて

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第七章 星を超えて

地球・今 「思い出したかい、坊や?」 女の人はそう囁いた。 「山に行って・・・そこからどうしたんだっけ、なんで俺は地球に・・・?」 俺はまだうまく読みめていなかった。震えながら、涙を流しながら独り言のような事を言った。 「それで月はどうなったの?」 まるで置物のように立つ女の人に訊いた。 「坊や、自分で行って見てくればいい。すっかり変わってしまった月を」 女の人はそう言い終わり、困ったような俺を顔を見て小さいお辞儀をしてから消えてしまった。 重い足音をたてながら路地裏を歩いた。 クララのことを思い出してまた泣き崩れそうになった。 俺が骨だけになろうと、魂だけになろうと、クララに抱いた思いだけは守り抜きます。 そう教会で誓ったあの日の事も今は遠い過去。 路地裏を抜けるとあたりは眩しいくらいに輝いていた。人がせわしなく動いているのを見ると、無性に月が懐かしくなった。 月は暗い夜に独り、人々を照らしていた。 海を動かし、満月の日には夜空の星さえも消してしまう。 月は痛みや苦しみから解放され、理性に溢れる土地。 「雅人君、大丈夫・・?」 ベンチでぐったりしていた雅人に駆け寄ってきたのは優菜だった。 雅人が路地裏に飛び込んでから帰ってくるまでずっと待っていてくれたのだ。 「優菜・・・さん?」 色々なことを思い出して混乱していたのか、少し堅苦しくなってしまった。 「大丈夫、一緒に帰ろう」 優菜はそう言って俺に手を貸した。 一瞬しゃくり上げそうになってしまった。 本当に地球は心地よかった。 夜道を歩いていると段々と魔法が解けるようにこみ上げてきた感情が静まっていった。 「今日はありがとね、本当にありがとう」 恥ずかしくなってしまい優菜の目は見れなかったけれど、勇気を振り絞って言ってみた。 「困ったときはお互い様でしょ、ね?」 仮面を被っていない、優菜のそんな本音が本当に好きだった。 それからの日々、毎日のように月の事を考えた。 月の事を考えるということは、これからの自分の人生を考えることに繋がったからだ。 一度図書館に行って現代の月について調べてみた。 月は去年の冬、裏の月と武力衝突を起こしている。 政府機関を中心に狙われ、一万人を超える人々が亡くなった。 しかし被害者や戦後の状況は地球では非公開となっていた。 月を懐かしむ思いと、いつまでもこの三人でいたいという思いに挟まれ、どうしていいのかわからずに時間だけが過ぎて行った。 実咲と優菜には月から来た事は秘密にしておいた。
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