あの日の俺

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あの日の俺

今の交番勤務は3年目になる。 憧れのお巡りさんとして、この辺りのことは分かってきてる。ベテラン先輩ともうまくやってる。 市役所や美術館、学校や城跡、商店や会社そして古くからの住宅街。空き店舗もあるが、犯罪も少ない落ち着いた地区。 順風満帆と思ってる俺の、夏の日の小さな大事件を聞いて欲しい。 先輩は近くの会社の人と話していたが 「よろしくお願いします」 と帰っていった。 入れ違いに入ってきたのは見るからに田舎くさい女性だった。白髪交じり、スーパーへでも行く普段着、斜めにかけた鞄。化粧もせずマスクで誤魔化してるみたいだ。 「この前は、以前の動物園の入り口でしたか?40年くらい前までだと思うのですが…」 いきなり何言い出すんだこのおばちゃん。いや、おばあちゃんか。幼稚園くらいの孫がいそうに見えるぞ。 「そんな昔のことは分かりません」 と正直に答えた俺。 「そうですか。久しぶりに来たんで懐かしくて。いつもは車で通り抜けるだけなんです。」 チラリと先輩を見て、寂しそうに笑った。ため息をつく。 「お邪魔しました」と言うと帰って行った。 何なんだあのばあちゃん? 後ろ姿を見てる俺。その人は、向かいの空き店舗を見たり、隣の学校をフェンス越しに見たりしてた。 「城跡の方に行ったか?」先輩が言う。 「美術館か大河ドラマ館にきたんだろうな。懐かしくて歩いてるんだろうなぁ。 バスならこの前がバス停だから、市営駐車場の車で来ただろうな。 しかし、あの言い方はないぞ。そんな昔ってなぁ。 君にとっては生まれる前のこと、昔のことであっても、あの人にとっては若かりし頃の思い出なんだよ。 誰にも思い出の場所、あると思うが君にはないかい」 「は、はぁ。すみませんでした。気をつけます」 なるほど、俺は正直に思ったままを言ったけど、俺にとっての昔でも、あの人には思い出の地なのか。 あの年代の人たちにとって若かりし頃の、デートでもしたか、子供と来たか、楽しい思い出の地かぁ。 「ちなみに、あの女性はあってるぞ。 向かいの空き店舗はお土産の玩具屋や食堂だったんだから」 先輩の顔はあの人と同じで懐かしそうに見えたのは気のせいだろうか。
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