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蓮が退席し、杏樹さんも欠席。
結果、婚約発表は無くなっていた。
その為、パーティーは予定時刻より早く終了した。
蓮は病院に運ばれていた。
中川さんは蓮と一緒に病院へ、飯田さんは閉会後に病院に向かった。
私は厨房と会場の後片付けをしていた。
そこに飯田さんから、連絡が入る。
「社長が暫く入院することになったわ。社長の部屋に出張の時の為の一式が入った鞄があるので、持って来て欲しいんだけど」
「はい、わかりました。直ぐわかりますか?」
蓮の部屋に入るという事に少し戸惑いを感じていた。
「寝室のクローゼットを開けたら、直ぐにわかるわ。私も前に頼まれて取りに行ったから」
飯田さんも入った事があると聞いて、ホッとする。
蓮の部屋のドアを開けた。
「失礼します」
誰もいないのは分かっていて、小さな声で呟く。
其処には、何もないと言って良いほど、閑散とした広いリビングダイニングがあった。
家電の類は、小さな冷蔵庫だけ。
シンクの上のコップ立てに、コップが3個
テーブルもソファーも椅子も、なかった。
此処は仮住まいとは聞いていたけれど、あまりにも無機質だ。
ベッドルームのドアを開ける。
其処には、ベッド、デスク、本棚が置かれていた。
本棚には、経営関係の本がびっしりと並んでいる。
デスクにはPCと、モニターが3台。
此処で蓮は、1人で会社を立て直す為に頑張っていたんだ。
なんだか、胸に熱いものがこみ上げて来た。
クローゼットを開けると、30着近いスーツとYシャツが綺麗に並んでいた。
私服は端の方に、5、6着程かかっていた。
鞄は飯田さんが言った通り、探さなくても直ぐそこにあった。
私はその場に立ち尽くしていた。
なんでこんなに寂しい部屋なんだろう。
胸が締め付けられて、凄く痛かった。
大きな声を出して泣いた。
なんでこんなに涙が出るのだろうと思う位、泣いた。
どの位の時間が経ったのだろう。
私は涙を拭いた。
蓮の鞄を手に取って、クローゼットを閉める。
私は心を決めた。
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