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誰かの話し声がしていた。
「あ、そうだな。それで頼む。じゃあ後で」
多分琴宮さんの声だ。
いつの間にか寝てしまっていたんだ。ソファに横たわって寝てしまった私に毛布が掛けられていた。身体を半分起こす。視線の先に琴宮さんの姿があった。さっき電話を切ったばかりだったのに、またスマホを耳に当てていた。
ほんとに忙しい人なんだな。こんな人と結婚したら、大変だろうな。
私には絶対務まらない。飯田さんみたいな人しか無理だ。
あと、中川さん。あ、中川さんとは結婚は出来ないか。
なんて下らない想像が頭の中を駆け巡る。
私の視線に琴宮さんが気付いた。
「あ、彼女が起きたから頼む」
そう言って、耳からスマホを離した。こちらに向かって歩いて来る。
「待たせて悪かったな」
今、悪かったって言いましたか?言いましたよね。
謝罪も出来なくはないんだ。でも今この場じゃない気がする。
紅茶を掛けた時に言って欲しかった。
「寝ちゃったんですね、私。直ぐ帰ります」
毛布を畳みながらそう言った。
「何処に帰るの?」
彼がちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
「何処って、家ですけど」
「西島から、社員寮に今日から入りたいって希望出しているって聞いたけど」
「あ、そ、それは」
流石に耳が早い。まあCEOならその位把握してないとやっていられないですよね。
「帰る所があると言うなら、帰って貰っても構わない」
彼がスイートルームのドアを指さした。
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