最悪な出会い

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「あ、悪い」 私の頭上から声がした。そちらに目を向ける。 右手にくるくる回っていた女の子、左手にカップを手にした男性がこちらを見ていた。 「あ、あ、はい」 私は何が起きているのか、まだ理解しきれずに、 その男性と紅茶色に染まったブラウスと今までクルクル回っていた女の子を 交互に見ていた。 「中川」 彼が誰かの名前を呼んだ。 「はい」 少し後ろを歩いていたらしい男性が私に駆け寄って来た。 「申し訳ございません」 中川と呼ばれた男性が深く頭を下げた。ん、待って。 まだ状況は把握しきれていないけれど、最初に「悪い」と言ったのは彼だ。 だとしたら、なんで「中川」が頭を下げているんだろう。 私は左手にカップを持った男性を見上げた。 彼はもう私ではなく、くるくる回っていた女の子の相手をしていた。 多分転びそうになったのだろう、その子は泣いていた。 それをあやしているようだ。 程なく母親らしい人が駆け寄って来て、彼にお礼を言った。 私はそれを他人事の様に見ていた。 「すみません。直ぐ着替えを用意させて頂きます」 中川と呼ばれた人が、再び私に向かって謝罪をして来た。 「待ってください。この紅茶って、あなたのカップから零れたんですよね」 私は、左手にカップを持った男性に向かって言った。 やっと事態を把握する。 私の言葉に彼がこっちを向いた。 さっき女の子をあやしていた時とは、まるで違う凄く冷たい表情だった。 「それがどうした」 口調は更に冷たかった。 「それなら、あなたが謝ってくれませんか?」 彼の表情がより険しくなった。 「悪いと言ったが」 それが謝罪の言葉?私は呆れる。 「申し訳ございません。今着替えを・・・」 「中川」がアタフタしていた。 「あなたは謝らなくていいです」 私は「中川」を制した。私と彼の間に恐ろしい程、冷たい空気が流れた。 「中川、時間がない。移動する。彼女も一緒に」 私も一緒にって言った? 「はい、わかりました」 「中川」が私の顔色を伺う。 「すみません、時間がないので、一緒に来て頂く事は出来ますでしょうか」 「中川」が今までより一層丁寧に私にそう言った。
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