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「徳間くんたちが夫婦なのはご存知ですか?」
「俺が知っているのは学生時代までなので。……でも、悠さんと婚約していたのは知っています」
答えると、先生は小さく頷く。
「徳間くんたち夫婦はうちのクリニックでは一番ハードなプレイを担当するセラピストで、緩い僕のプレイにはいつも呆れられていました」
また思い出しかけるあの徳間。
パッと首を振ると先生は俺の頬に手を添えた。
優しくキスをしてくれて目を合わせてくれる。
「大丈夫ですか?」
「はい」
それだけで感じかけた不安は溶けて、入った身体の余分な力も抜けた。
「二人のプレイを見て僕には無理だと思ったし……壊れる前の母を見ているみたいで恐くもなりました」
あの二人のプレイを見て感じた恐怖。
それは俺だけではないというのは少し安心する。
「僕の両親やあの二人のように……パートナーができてもセラピストとしてパートナー以外ともプレイするのは元々嫌だったんですけどね」
再び俺の手を握って先生はゆっくりこっちを見た。
「母が病んで……父は初めて母の大切さを痛感したと泣いたことがありまして。父もセラピストを辞めて二人で新しく人生をやり直すのを僕は見てきましたから」
先生も色々大変なことがあったのだろう。
記憶を辿るようにふと遠くを見つめてからこっちに向き直って少しだけ笑った。
「だから、あれが僕には限界だとセラピストを辞めて、空きが出ていたあの学校で養護教諭になったんです」
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