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★もどかしい
俺の荷物を少し運ぶだけで引っ越しは終了。
「航生さん?どうしました?」
「いや、まさか……今朝頷いてもう?」
金曜の夜から土曜日を過ごすために少しずつこっちにも荷物を運んでいたとはいえ、夕方には先生のマンションでもうずっと過ごせる状態になるとは思わなかった。
既に俺のアパートに残るものは今は使わない季節ものとほぼ処分するものばかりだ。
「こんなすぐは嫌でした?」
不安そうな先生の手に触れる。
この人はDomなのになぜこんなにいつも俺を優先してくれて尊重してくれるのか?
先生には今まで持っていたDomの傲慢なイメージは一切ない。
「ううん。一緒に居たいから嬉しい」
指を絡めて握ってから笑って返すと、先生はギュッと抱きついてきた。
「好きです」
「うん、俺も」
こんな穏やかな幸せ。
心地よくて贅沢だと思う。
俺の体調ももうずっと安定していて、不眠も頭痛もイライラも倦怠感も……もう感じることもない。
愛おしさが込み上げて手を伸ばせばいつも触れて引き寄せてくれる先生。
微笑んでくれる度に嬉しくて、胸がじんわりと温かくなる。
「航生さん」
「何?」
「名前で呼んで下さい」
「っ……追々?」
それはまだ何か恥ずかしいんだけど。
「言いたくさせなきゃですねぇ」
チュッとキスをして笑われて、逃げて誤魔化そうとした俺は簡単に捕らえられる。
じっと茶色の瞳に見つめられてまたキスをされて、ドキドキと心臓がうるさかった。
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