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家族三人で、俺が根城にしていた民宿で世話になることになった。
長旅のせいで疲れたのか、着いてすぐ大輝は眠ってしまった。夕梨花が張った遮光カーテンの向こうから、夕焼けチャイムのメロディーが聞こえてきた。
「――で、そのサマーライトとかいう瓶ラムネの力を信じて、ずっとここにいたってこと?」
「ああ」
「そして、それは子供の頃に自分が考えた架空の飲み物だった」
「ああ、そうだ。もしこいつが本物のサマーライトだったら、大輝は助かるかも……」
「……ねえ!」
語気を強めた夕梨花の声が、俺の言葉を遮った。
「本気で言ってるの……?」
試すような眼差しだった。
「お医者さんの話を聞きに行ったんじゃなかったの?」
「行ったよ。何人も会った。だけど、改めて思い知らされただけだったよ。わかっていたことじゃないか。大輝の病気に治療法なんて存在しないんだ」
「それでも、私達がするべきことは、奇跡に縋ることなんかじゃない。もっと他にできることがあるはずだよ。それに、まずは大輝にちゃんと伝えなくちゃ。それは父親である自分の役目だ、って言ってたよね」
何も答えられなかった。もしかしたら俺は、サマーライトにかこつけて現実から逃げていただけなのかもしれない。
恭介くん、と夕梨花は言った。
「わかってる? このままじゃ大輝、何も知らないまま死んじゃうんだよ」
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