サマーライト

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 夜が来て、部屋の灯りを消した。  眠り続けたままの大輝を挟んで、親子三人で川の字になって布団に寝転んだ。  程なくして夕梨花の寝息が聞こえ始めた。彼女も相当疲れたのだろう。大輝を連れての外出は、とても神経を使う。  気がつくと、8月もあとわずかで終わるところまできていた。台風が過ぎ去るまでは、もう身動きさえ取れない。  ああ、結局こうやって――またひとつ夏が終わってしまうんだ。  為す術もなく、あっけなく。こいつにはもう、数えるほどの夏しか訪れないというのに。  俺は大輝の寝顔を眺めた。目元は母似。鼻筋は俺に似ている。成長したな、と思う。ついこの間まで、壊れそうなほどに小さかったのに。こんなにも愛おしい存在に、何を伝えろというのだろうか。  サマーライトが完成していたらと、この期に及んで考えてしまう。その力で、夏空の下を自由に駆け回る子供らしいひと時を与えてやれる気がしていた。  夏は光だ。光は思い出の在り処だ。それは人が未来を目指して生きる理由になるものだ。だけど、俺たちにはその全てが遠すぎる。   ふと、手のひらに温かな感触を覚えた。 「パパ……」  気がつくと、大輝が薄目を開けて俺を見ていた。 「パパ、大好き」  心の中枢に安らかな明かりが灯る。この瞬間を光と呼ばずに何と呼べばいいのだろう。 「起きてたのか?」 「ううん、いま起きた。ねえ、パパなにかあった?」 「どうして?」 「だって、さっきすごく辛そうな顔をしてた」  そうか。きっとこいつは、自分にとって精一杯の思いやりで、この手を握ってくれたのだ。  俺には何ができる? 俺は大輝の父親だ。父親は息子のためなら、なんだってできるものだ。 「大丈夫だ」 「ほんと?」 「ああ、実はとても楽しいことを考えていたんだ」 「楽しいことって?」 「なあ、ちょっと外に出てみないか?」  俺は声を潜めながら大輝に言った。 「お外? 今から? こんな夜中に?」 「ああ」と俺は口元に人差し指を添えた。 「親子二人だけの、秘密の冒険だ」
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