21人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしかして、恭介か?」
いつも通り浜辺でサマーライトを覗き込んでいると、思いがけず名前を呼ばれた。
強い日差しを片手で遮りながら顔をあげると、見覚えのない男とその息子らしき少年が俺を見ていた。
「……誰だ?」
「小暮だよ。まさか、幼馴染の顔を忘れちまったのか?」
「――ああ」
思い出した。
「こてっちゃん」
小暮哲朗。小、中の頃よくつるんでいた友人だ。
「いらんあだ名まで思い出すな」
哲朗は笑った。人懐っこい表情に昔の面影がチラつく。
「ほら、挨拶しろ」
哲朗が促すと、隣にいた少年がペコリと頭を下げた。こんがりと灼けた肌が印象的なその姿は、夏休みの少年のイメージを忠実に体現していた。
「ねえ、遊んできてもいい?」
哲朗のシャツの裾を引っ張りながら、少年が言った。
「ああ、いいぞ。好きなだけ遊んでこい」
わーい! と声を上げながら走り去る少年の姿に、俺は醜くも厭わしさを感じてしまう。
「しかし本当に久しぶりだな、恭介。ご家族は? 子供、もう小学生くらいだよな?」
「ああ……あいつはずっと家にいるよ」
「せっかくの夏休みが終わっちまうだろう。どこか連れてってやれよ」
「色々あるんだよ」
「まさか、引きこもりか?」
「……まあ、そんなとこだ」
俺は薄く笑いながら言った。
「まあ、今からどこか行くって言っても難しいだろうしな」
「どういう意味だ?」
「ニュース、見てないのか? 台風、明日にでも上陸するらしいぞ」
……冗談じゃない。台風だと? サマーライトの完成が遠のいてしまうではないか。いや、それどころか夏の終わりのタイムリミットまでに間に合わないかもしれない。
「クソッ……」
俺は頭を掻きむしった。
「おい、お前、大丈夫か?」
哲朗が言った。
「何が?」
「いや、どこか普通じゃないっていうか……」
そうか。他人から見たら、今の俺は異常に見えるのか。
「なあ、こてっちゃん。ひとつ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「サマーライトって知ってるか?」
俺の問いかけに哲朗は一瞬考え込み、思い出したように口を開いた。
「……懐かしいな。お前、まだそんなの覚えてたんだな」
最初のコメントを投稿しよう!