夏の終わりにキスがしたい

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 今年の夏休みの一大イベントが決まり、興奮気味の俺たちは、目をギラギラさせながらも、自分たちを落ち着かせ、誰を誘うのかひとりずつ発表していく。  まずは俺、前々から可愛いと思っていた、三組の田波(たなみ)沙那(さな)。ふんわりとした雰囲気と、な体つきがたまらなく俺の好みだ。あとの二人も、照れくさそうに女子の名前を口にした。それぞれ好みが違ったおかげで、誰もかぶらなかったことにまずは一安心する。とは言え、誘いたい相手の連絡先を誰ひとり知らないという第一関門にぶち当たった。勝負は放課後、今日の課題はまず、「連絡先を手に入れる」だ。そして次に、「デートに誘う」の順番でやっていく。もちろんそれだけではこのイベントを成功させられない。彼女たちにオッケーの返事をもらわないと全く意味がないのだ。とにかく、俺たちはこれに命をかけていると言っても過言ではない。  事の始まりは先週の金曜、部活終わりに佐野原(さのはら)琢真(たくま)がふざけて言った一言だった。 「俺も彼女欲しいー、キスしたーい、キスしたーい」  本気なのか冗談なのか、棒読みのそれにウケたのが俺、小田隆太(おだりゅうた)ともうひとり、山南(やまなみ)ケンゾーだ。ちなみにケンゾーは日本とアメリカのハーフで、日本生まれ日本育ちの純粋な日本人だ。残念ながら、英語力に至っては俺以下だ。  琢真は、自分の発した一言に、制汗シートで体を拭きながらケラケラ笑う俺らを見て、さらに調子に乗ってこう言った。 「俺、この夏が終わるまでに、絶対に美羽(みう)ちゃんとキスするから!」  宣言するみたいな口調に、ケンゾーと二人でさらに笑ってしまったのにはもちろん理由がある。なぜなら、琢真と美羽ちゃんは付き合うどころか友達でもないのだ。琢真を馬鹿にしていると、それじゃあお前らはどうなんだとにじり寄るから、痛いところを突かれてケンゾーと顔を合わせた。よくよく考えなくても、俺たち二人も笑っていられるほどの余裕はない。  高校に入学して同じクラスになったのがきっかけで仲良くなったのが琢真とケンゾーで、さらには部活まで同じだ。 「高一の夏は今しかない!」  あたりまえのことをまるで名言かのように言う琢真に、その場の雰囲気もあってか、馬鹿な俺らは二人して感銘を受けた。そこから、夏休みの計画について三人で話し合い、とんとん拍子でことが決まった。
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