夏の終わりにキスがしたい

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 放課後、三人一斉にチャイムと同時に廊下に飛び出した。目配せをし、それぞれが別のクラスへ向かう。大事な日だからと、あたりまえのように部活は欠席した。  三組の教室の前まで行き、少し離れた場所から教室の中を覗く。  一応の下調べとしては、田波さんはテニス部で、ラッケトを持つ姿も可愛いということくらいだ。早々に部活に行ってしまう前に、なんとか呼び止めたい。目だけでキョロキョロしていると、教室の後ろから友達と並んで出てきた。ひとりではなかったことに緊張感が増すけれど、そんなことは言っていられない。自分を奮い立たせ、真っ直ぐに彼女の元に向かった。 「──田波さん」  自分でも驚くほど声が出なかったけれど、幸いにもその声は彼女に届いたようで、少し驚いた顔をしながらも、立ち止まってくれた。一緒にいた友達は、何を察したのか、「先に行ってるね」と言って行ってしまった。  ──ナイス友達!  心の中で、その友達の背中に大声で言う。  田波さんの方へ歩み寄りながら、放課後の喧騒をどこかありがたく感じた。 「今、ちょっといい?」  俺が聞くと、目を泳がせながらも頷いてくれた。 「俺、一組の小田隆太。こうやって話すのは、初めてだよね?」 「うん。そう、だね……」  俺を警戒しているのか、緊張しているのか、面倒だと思っているのか。どれにせよ、自分のことでいっぱいいっぱいで、気を使う余裕がない。 「いきなりで驚いたよね。俺は、めちゃくちゃ緊張してる」  そう言うと、ふっと彼女の表情が和らいだ。 「俺、田波さんのこと知りたくて、だから、連絡先聞いてもいいかな?」  驚いてはいるようだけれど、絶対に嫌という感じには見えない気がして、さらに気持ちでにじり寄った。 「田波さんのこと、ずっと可愛いなって思ってて、でも話したことないから、今日、思い切って話しかけたんだけど。だめかな?」  彼女は首を横にふると、「だめじゃないよ」と答えた。声までもが可愛くて、顔がにやけそうになるのをぐっと堪える。  ポケットからスマホを取り出し、まずは第一関門突破。部活に行くという彼女を見送ったあと、あの二人と待ち合わせをしている駅前のバーガーショップに急いで向かった。暑くてたまらないのに、歩いてなんていられなかった。  汗だくになりながらバーガーショップの中に入り、冷房の効いた店内で気持ちを落ち着かせていると、「隆太!」、名前を呼ばれた。すでに二人は来ていたようで、しっかりとハンバーガーのセットを食べている。片手を上げ、とりあえず冷たいドリンクを買ってから合流した。 「でっ!?」  俺が座るなり、遠慮のない聞き方をしたのは琢真だ。こいつの口調と雰囲気から察するに、こいつら二人の結果も悪くなさそうな気がした。  俺は、さっそく親指を立て、ドヤ顔をしてみせた。
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