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プロローグ 隕石落下
土曜日は、夜更かしをしてもいい日。といっても、十二時前にはベッドに入るのだけれど、なぜか今日は眠れなかった。
ベッドの上でごろごろと転がっては、目覚まし時計の数字がさっきとあんまり変わっていないのを確認する。
「あーもう!」
特に意味のないうなり声とともに、起き上がった。ベッドから下りて、カーテンを開ける。
月のない夜、星がキラキラと光っている。私はあんまり興味がないから、星座なんてわからない。
お兄ちゃんあたりはたぶん、寝る間を惜しんで天体観測をしているにちがいない。中学校に、ひとりで天文部をつくっちゃった宇宙オタクだから。
美しい星空は、この小さな街の宝物だ。
天文台に勤めているお父さんは、巨大な望遠鏡を背に、目を輝かせて言った。確かにきれいだけど、私にはそれだけ。
あーあ。どうせなら、流れ星でも降ればいいのに。
願いごとはいっぱいある。
テストで100点を取りたいとか、弟の生意気が治りますように、とか。
でもやっぱり、一番お願いしたいのは、自分のこと。
視界の端に入る前髪を、いまいましくにらみつける。
寝ぐせがつくほど長時間寝ていたわけじゃない。けれど、くるんくるんになっている、茶色い髪。
さらさらストレートの黒髪になって、ロングヘアにしたい――!
流れ星が消える前に三回唱えるのは難しいな。練習しているうちに、眠くなるかもしれないから、いつかのためにやってみようか。
なんてことを窓の外の夜空を見上げながら考えていたら、なんと、タイミングよく、動くものが。
飛行機? なに?
いや、こんな深夜に飛行機って飛ぶの?
「流れ星だっ!」
そうにちがいないと思った私は、ぶっつけ本番で「黒髪ストレート黒髪ストレート黒髪ストレート!」と、早口言葉に挑戦する。
一回、二回唱えても、星は消えてなくならなかった。
なんだかおかしい。
「黒髪ストレ……わっ!?」
轟音が近づいてくる。流れ星なんてかわいいサイズ感じゃない。ものすごいスピードで突っ込んでくるのは、隕石だ。
息をのんで行く末を見守る。肉眼でとらえられるくらい近い場所を飛んでいるソレは、山に向かっていた。
街のシンボルである銀河山の中腹には、お父さんが働く天文台がある。今日はたまたま家にいるけれど、夜勤で職場に泊まり込みになることも多い。私も何度も行ったことのある、なじみのある場所だ。
「やばいって!」
慌てて階段を駆け下りて、靴を履くのももどかしく、玄関の外へ。
そして。
ドゴーン!!
隕石は、落ちた。銀河山の山中に。子どもは寝る時間でも、まだ起きている大人は多かった。何事かと、周りの家からも人が出てくる。
「お父さん!」
パジャマ姿のままのお父さんが、慌ただしく外に出て行く。声をかけると、「まだ起きていたのか」とは言わず、私の肩をがっしりと掴んだ。
「いいかい、七星。お母さんの言うことをちゃんと聞くんだ」
ものすごい勢いで落ちてきた火球によって、山火事が発生しているかもしれない。お父さんは使命感とともに、山へ行ってしまう。
「お父さん……」
ぼんやりと見送ると、そっと肩に手を置かれた。見上げれば、まだパジャマにすら着替えていない、お兄ちゃんだった。
この隕石落下事件が、これからの生活をがらりと変えてしまうことを、このときの私――天ノ川七星は、まだ知らなかった。
ただ、心細さを慰めるように、兄の服の裾を、ぎゅっと握りしめた。
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