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宇宙人がやってきた
結局、日曜日は一日中、避難グッズの入ったリュックを背負って、お父さん以外の家族みんなでリビングで固まっていたけれど、避難指示はいつまでたっても来なかった。
弟の昴は早々に緊張から脱して、ゲームを始めていたけれど、お父さんから「避難はしなくても大丈夫だ」という連絡があるまで、ずっと心配だった。
ただ、そう言って安心させてくれたお父さんは、まだ仕事があるらしく、月曜の朝になっても帰ってこなかった。
登校すると、話は山に落ちた隕石の話で持ちきりだった。
「あっ、七星! おはよう!」
「おはよう、琴音、千鶴」
ランドセルを置くのを待ちきれず、琴音が近づいてきて、まだ空いていた前の席に座る。千鶴は周りに目を配っている。琴音が占領した席の子が来たら、すぐにどかすつもりなのだ。
せっかちでおしゃべりな琴音と、おっとりと優しい千鶴は、私の親友。毎日しゃべってても飽きることはないんだけど。
「ねぇ、七星のお父さんって、天文台の所長なんだよね?」
「いや、所長ではないよ?」
「土曜日の隕石って結局なんだったの? 昨日一日テレビ見てたけどニュースで何も言ってなかったし、山は警察とかいろんな人がいっぱいいて立ち入り禁止だったの。七星のお父さんなら、知ってるよね?」
お父さんの職業柄、質問攻めにされるのは予想していたが、案の定。一気に聞かれてもわからないし、そもそもお父さんはあれから帰宅していなから、詳しいことなんて聞けていない。
だから私は、みんなと同じ情報しか持っていないし、なんなら山が関係者以外立ち入り禁止になっていることだって、今初めて知った。
「お父さん、まだ帰ってきてないからなんにもわかんないんだよね。ごめん」
えーっ、と残念がる琴音を、千鶴はたしなめた。
「七星ちゃん、お父さんのこと心配だよね」
「うん……」
しょんぼりと背中を丸めていると、突然背中を強く叩かれた。息が止まりそうになって、一瞬体を固くしたあと、振り向く。
こんな馬鹿みたいなことをするやつ、ひとりしかいない。
「~~っ! 颯太ぁ~~!!」
いがぐりみたいな頭をしているのは、お隣の家の颯太だ。いわゆる、生まれたときからの幼なじみであるこいつは、なぜか私をしょっちゅうからかってくる。
「背中丸いとブタになるぞ~。岬みたいにな!」
岬というのは千鶴のことだ。しゅん、と悲しそうな顔をした千鶴を目の端に入れて、私は立ち上がった。小学校五年生、女子の方が成長期が早くて、私は颯太よりも断然背が高い。
「いい加減にしなさいよ、颯太!」
「なんだよ、デブにデブって言ってなにが」
悪いんだよ、と言う前に私のげんこつが炸裂した。見た目よりも柔らかい髪は、衝撃を吸収してはくれない。ダイレクトに痛みが走ったらしく、涙目になって頭を押さえた。
「いってぇ……この暴力女! アフロ! もらわれっこのくせに!」
「猿渡くん!」
千鶴の悲鳴。
「なんてことを……」
もちろん、私がもらわれっこで家族と血がつながっていないなんていうのは、颯太の嘘だ。誕生日も一日ちがいだし、生まれた病院も同じこいつが、知らないはずがない。
私を傷つけたいだけなんだ。
家族と似ていないこの髪を、私が気にしていることを知っているから。
「そうだよ! いい加減にしなよ!」
戦意を失った私にかわり、ふたりが奮闘してくれるが、手が出ないで口での応戦ばかりになってしまうため、颯太に押され気味。
ダメだ。傷ついている場合じゃない。助けなきゃ。
「颯太。本当にそういうの、やめて。面白くないから」
強めに言うと、彼はほんのわずかにひるむ。このまま調子に乗らせない、と、一歩距離を詰めた。
そこでタイムアップ。担任がやってきた。
普段は見た目通りおしとやかな桜井先生が、ものすごい勢いでドアを開けたものだから、私たちは驚いて、動きを止めた。
「あなたたちっ! これから臨時の全校集会をやるから、体育館に行って!」
毒気を抜かれた私と颯太は、一瞬だけ顔を見合わせて、それから「ふんっ」と、そっぽを向いた。
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