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体育館に集められた全校生徒は、突然のことにざわざわしていた。
全校朝礼は月に一回、先週やったばかりだ。よっぽどの理由がなければやらない。
そう、例えば隕石が降ってきただとか。
生徒全員が集まっているので、もちろん弟の昴もクラスの列に並んでいる。ふいに目が合うと、なぜかやつは「いえーい」と両手でピースを見せつけてきた。
ばか、ちゃんと前向きなさい。
口パクで注意をしたけれど、はたして通じたかどうか。
それから先生たちが並んでいる体育館の前方を見て、「あれ?」と、声をあげてしまった。
「お父さん?」
どうしてお父さんが、学校に? やっぱりこの朝礼、隕石と関係あるのかな。
校長先生の隣にいるお父さんの表情は真剣そのもので、私の視線にも気づかない。教頭先生と、なにごとかをぼそぼそ話し合っている。
なんだかいやな予感がする。なんだろうね、と話をしているクラスメイトたちは感じていない、なんだかとてつもない事態に巻き込まれそうな感じ。
それぞれのクラスの担任の先生が、落ち着かせようと身振り手振り、はては怒鳴り声をあげて注意をしている。次第に静かになっていく体育館だったけれど、次の瞬間、ざわついた。
「あー、静かに、静かに!」
登壇してマイクを手にした校長先生の隣に立ったのは、同い年くらいの男の子だ。各学年、二クラスしかないから、名前は知らなくても見知った顔ばかりの中、全然知らない子だった。
ただの転校生? ううん、それなら全校生徒を集める必要はない。
私のいる位置からだとよく見えないけれど、前の方にいる子たちがなにごとか騒いでいる。
「かっこよすぎない?」
「金髪なんですけど~。えっ、待って待って、目も緑色だっ」
「んん~、王子様みたい!」
私の場所からは、サラサラストレートの(うらやましい!)金髪が見えるだけ。話を総合すると、「東京に行っても会えるかどうかわからないほどの美少年」らしい。
一部の女子たちがきゃっきゃとはしゃいでいるのを、彼は目を細めてじっと見つめた。にらむ、というのが正しいかもしれない。だって、彼女たちはおしゃべりをやめて沈黙してしまったから。
ようやく静かになったのを見て、校長先生はハンカチで汗を拭きつつ、「えーと」と、話を切り出した。あらかじめしゃべる内容を決めておけばいいのに、しどろもどろになって、ちらちらと男の子の方を見ている。
「そのぅ……天ノ川さん、よろしくお願いします」
結局、マイクはひかえていたお父さんに渡る。
家にいると、のんびりしていて、星や天体にまつわることはめちゃくちゃ早口になるお父さんだけど、今日はいつになく真面目な顔をしている。お仕事モードは、ちょっとだけかっこいい。
お父さんは、おとといの夜の隕石落下事件について、まずは話をした。全部の情報をしゃべったわけじゃないと思う。私たち小学生に話をしても大丈夫なことだけ、お父さんはゆっくりと、私たちがちゃんと理解できるように話をする。
隕石ではなく、飛行物体だったこと。要するに、宇宙船? 宇宙人? 本当にいるんだ!
ざわざわするのを、また先生たちが必死になだめようとする。お父さんはその間、口を閉ざして待っていた。
宇宙船が銀河山に落ちてきたのはわかったが、今度はそれと、壇上の男の子がどう関係しているのかわからない。
お父さんは、男の子の背中をそっと押して、一歩前に出した。
ようやく私にも、彼の顔が見える。
イケメンっていうよりも、きれいって言葉の方が似合う。女の子みたいっていう意味じゃないよ? 緑の目はキリッとしていて、無表情だから、なんだか冷たそうに見える。でもそれは、緊張しているだけなのかもしれない。
どんな子なんだろう。
仲良くなったら、あの金髪サラサラヘアの保ち方とか、教えてもらえないかな。
そう考えていたら、お父さんが爆弾発言をする。
「彼はその宇宙船に乗っていた、惑星S77から来た、私たちから見れば、宇宙人です」
惑星S77は何光年離れているなんとか星系の天体で~などなど、お父さんが説明しているけれど、ちっとも頭に入ってこない。星オタクじゃないから、大部分の生徒は興味がない。あ、うちの弟くらいかも、真面目に聞いてるの。
あの美少年が、宇宙人。宇宙船が墜落したということは、それが直るまで帰れないってことだ。
もう一度、私は壇上の男の子を見る。
彼は涼しい顔をして、背筋もまっすぐ堂々と立っているけれど、私と同じ年くらいの普通の男の子に見える。
宇宙船には、誰かと一緒に乗っていたのかな。家族や友達は一緒じゃないのかな。これから地球でどうするんだろう。
お父さんは、私が思い浮かべた疑問に答えるように、彼の紹介をした。「ひとりで宇宙船に乗って散歩をしていたら、トラブルがあって銀河山に不時着したそうです。宇宙船の修理はいろんな人に協力をしてもらっても、数か月はかかるでしょう」
ひとりで宇宙船の操縦ってできるものなんだ。自動車っていうより、ゴーカート? あれなら私でも運転できるし。
「それで、銀河第一小学校のご協力をいただき、彼が母星に帰れるようになるまで、一時的な転校生、つまり留学生として過ごしてもらうことになりました。五年一組のクラスメイトになります」
うちのクラスじゃん!
じっと見ると、私の視線に気づいたお父さんは、ふっと笑った。眼鏡の奥でウィンクするあたり、私のいるクラスだと知っていて決めたな?
「よろしくお願いします」
お父さんが頭を下げ、ならうように彼も頭を下げる。
ただ彼は、ここにいたるまで、一言も発しなかったのが気になった。
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