1. 善意に潜む悪意

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1. 善意に潜む悪意

「天国に行こう」  そう提案したのは俺だった。  俺たちは泥に塗れた顔で通行人たちを眺めていた。ボロを纏った俺たちに、多くの人間は関心を示さない。 「本当に声なんかかかりますかね、ここでこうしてるだけで」  ムラサキはため息をついた。   「俺だってこんなことしたかねーよ。でも、これ以外に方法はない」 「この匂いにも慣れましたよ」  ムラサキが袖の匂いを嗅ぐ。   「ああ、慣れって大事だよな」  こんなことをしているのには理由があった。
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