朝食

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朝食

「帆高さん…」 「な、なにっ…」 なんか変な雰囲気。嫌な予感がする。 だんだん顔が近づいてきて、キスされる…!とギュッと目を瞑ると、肩口に温かくて柔らかいものが触れた。 驚いてビクンと身体を小さく跳ねさせ、目を見開いた。 肩口には唇が触れていて、突然なんなんだと困惑していると、ヂュッと音を立てて強く吸われた。 「っい゛…」 眉間に皺を寄せると、ライリーは顔を上げてジッと俺の目を見つめた。 「私はあなたが好きです。誰にも渡したくありません。」 真剣な眼差しを向けられると目を逸せない。 「っお、お前の気持ちには応えられねーけど…その…ありがとう。」 「今は応えられなくても大丈夫です。絶対帆高さんをおとしてみせますから。」 「お、おう。」 イケメンだからかあまり嫌悪感はない。なんならちょっとドキッとしてしまった…。   なんだか今日は色々あり過ぎてキャパオーバー。考えれば考えるほど脳に霧がかかったように思考がはっきりしなくて、気がつけば夢の中にいた。 ◇◇◇◇◇◇ 俺を呼ぶ声に意識が浮上する。パチリと目を開くと、男が俺の顔を覗き込んでいた。 「帆高さん、起きましたか?」 爽やかな笑顔に少し困惑する。なんだこの男。 一瞬、昨日ライリーが侵入してきたことを忘れていて、目の前に顔があったから驚いた。 頭の中で昨夜のことと、今の状況を整理し、ノソッと起き上がった。 「おはよ。」 ボサボサの頭を掻きながら言うと、ライリーはクスクスと笑った。 「喉乾いてますか?声が掠れていますよ。」 「多分。」 だるい身体をベッドから引き剥がし、フラフラした足取りでキッチンへ向かった。ライリーも後からついてくる。 俺は冷蔵庫を開けると、浄水ポットを取り出した。 「ライリーも水飲むか?」 俺は頷くのを確認すると、流し台のそばの乾燥ラックからグラスコップを二つ取り出して水を注いだ。 俺はコップに結露するのが好きだ。すごく冷えていて美味しそうに見える。 コップをライリーに渡すと、マジマジと観察をした。 「透明なんですね。」 俺はゴクゴクと水を飲みながらライリーを見つめた。 「不思議か?」 「はい。すごく不思議です。」 一気に水を飲みきると、コップをシンクに置いた。 「お前の世界にガラスってある?」 「ありますよ。」 「これにはそれが使われてる。」 言うと、ライリーは目を丸くした。 「私の世界では基本窓にしか使われません。…こんな使い方もあったなんて…綺麗ですね。」 「だろ?」 ニッと口角を上げて白い歯を見せると、ライリーは、ふっと微笑んだ。 「さ。朝ごはん作るか。すぐできるからそこで待ってて。」 「私も何かお手伝いしますか?」 「いい。すぐできるから。」 俺は袖を捲って、サッと手を洗うと、IHコンロの電源を入れてフライパンを温めた。 冷蔵庫からウィンナーと卵、サラダパックを取り出して、ウィンナーをフライパンの上に転がした。ジューと音を立てながら焦げ目をつける。ウィンナーがプリッとして皮が張ってきたころ、フライパンからウィンナーを取り出して、野菜と一緒に盛り付ける。 フライパンに少しだけ油をひくと、卵に牛乳、マヨネーズ、塩胡椒、コンソメ、味の素を入れてかき混ぜるとフライパンに流し込んだ。 フライパンの中で卵をぐるぐるかき混ぜるとあっという間にスクランブルエッグができる。それもお皿に盛り付けると、食器乾燥ラックについてある箸の入った水切りに手を伸ばして、ピタリと手を止めた。 向こうの世界に箸ってあるのか?フォークなら使えるか?とりあえず今日は箸はやめとくか。 そんな風に思いながらステンレスフォークを取り出した。 「お待たせ。」 お皿とフォークを目の前に置くと、少し嬉しそうに微笑んだ。 「私のいた世界の食事と似ています。」 「ん?そうなのか?」 「はい。卵の炒め物と野菜はよく食べていました。…この棒状のはなんですか?」 「ウィンナーって知ってるか?」 「いえ。」 「これは羊の腸詰。中身はひき肉。」 そう言うと、顔を顰めた。 「まぁ聞いたら気持ち悪いって思うかもな。」 …あ、腸詰じゃなくて肉だって言えば良かったか?俺絶対余計なこと言ったな。 「…ごめん。嫌なら俺が食べるから。」 「…いえ。大丈夫です。食べます。」 コイツには日本のいいとこ知ってほしいし、好きになってほしい。あまり嫌な思いはしてほしくない。だって行く当てないのにここが嫌だとか言われたら困るだろ。そこまで考えてふと気づく。 いやいや、何で俺が困るんだよ。俺は困らないし勝手にすればいい。…でも外で寝ているのは見たくない。 「いただきます。」 「いただきます。」 2人で手を合わせると、ウィンナーにフォークを刺して口に運んだ。 ライリーはすごい恐る恐る口に入れてる。やっと数回咀嚼すると、ピタリと固まった。それからまたゆっくり咀嚼するとゴクンと飲み込んだ。 お?食べれるか? 「…すみません、全然好みではなかったです。」 ストレートだな。オブラートに包むって言葉知らないのか。…まぁいいや。俺が作ったんじゃないし。元々できてたのを焼いただけだし。 俺はクスッと笑うと、ライリーのお皿の上のウィンナーを俺のお皿にうつした。 「いいよ。俺が食べるから気にすんな。」 「ありがとうございます。」 ライリーはホッと安心したように微笑んだ。
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