43.

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43. ロイは、相変わらず空を見上げたままだった。 ロイにとって、「ちがう世界」と「この世界」の違いは、ロイの心にあった… それは、「ちがう世界」の人間である、ヨウも同様だった。 「この世界」は「ちがう世界」より時間の進みが遅い為、考える時間が与えられ…完全なるサイコパスであったロイに… 僅かな良心が芽生え、キョウコの愛、そしてロイもキョウコを愛した事から今迄の悪逆を後悔し嫌悪感が生まれ…ロイは悩み、苦しむようになった。 それをわかっていた…剛の恋人「のん」が、ロイの心を見抜き誘導して…ロイ側にとって意味のないゲームに参加させたのだ。 ロイは、ゲームが進行して行くにつれ…さらに、キョウコとの愛が深まり、嫌悪感が日に日に増すようになり… 「ちがう世界」での冷血な心から、「この世界」でその面影が薄れつつあった。 闘いを中止して…お互いの勝敗は? 今後のロイ達と人質は? 人質のマインドコントロールを解放する、キーワードは? 俺はまだ、安心出来なかった。 雪が降り続き、山下公園は白一色となっていた。 カモメが氷川丸のデッキで休んでいるが…雪と同化しているため… そこだけ雪がコブのように積もっているように観え雪は、かなり降り続いていた… 闘いは、はっきりした勝敗のケジメなく、終わりを総理が告げていた。 「この世界」として、望んでいる事は… インターコンチネンタルホテルに人質となっている人のマインドコントロールを説くためキーワードをロイ又はキョウコから聴き… 人質の心が今迄の心に戻るように… 清い心の聖者、「のん」がキーワードを人質の心に優しく解く事が必要である… ロイ又はキョウコからキーワードを聴くことに「のん」は専念していた。 キョウコからキーワードは聴けたのだが… 人質にマインドコントロールをかけたロイがキーワード使用の許可が無いと…説く事は出来ないようだ… ロイは、はっきりキーワードを「のん」に教える事はなかった。 もう、人質の心も限界となっていた。 今迄に、ロイから見せ付けられていた、惨劇が人質の心を苦しめていたのだ。 「のん」は自分を信じかけてみる事にした。 それはキョウコから聴いたロイのキーワードを…人質に語りかける事を… ロイが人質にかけた、マインドコントロールのキーワードは単純な言葉だった。 「アナタハ ワタシニ シタガウ」だった! キョウコは、「のん」にこのキーワードを伝え、雪降る中、山手方面に向かい歩いていった。 俺達は、インターコンチネンタルホテルに向かい、人質のマインドコントロールを説き、解放を第一に考えていた。 剛は、「のん」の指示に従い、黄泉の国からテレパシーを人質に送り… ケアされたかの確認と、みなと警察署に、全ての殺人犯が戻ったかの確認も兼ねて行う事となっていた。 俺は、ホテル関係者のケアと監禁状況をレオと一緒に聞き、回っていた。 すると、レオが辛そうに、歩いている… 「レオ、どうした…」 「うん、なんか身体が重く…」 「何処かに、吸い込まれる…錯覚が…」 「頭の中に蠢いているんだ!」 「レオ、今はここに座ってろ!」 「どうだ、少しは…」 「涼、少しはいいよ…」 「でも、やはり時間のせいかなぁ?」 レオは、わかっていた「この世界」と「ちがう世界」は時間の速さが近い…その歪があることを… レオは、ホテルのソファに座りこんだ。 座っていても身体が衰退している事がわかった。 俺は、やはりと思った… それは、俺は「この世界」から「ちがう世界」に迷い込んでからレオとは違った変化があったからだ… 俺の場合は、「ちがう世界」の時間が「この世界」より速いため身体が「ちがう世界」についていけず…身体の各部位が消滅していったのだった! 俺は、最後に頭が消滅し…記憶が無くなった…ような…? レオの場合は俺とは逆で…「ちがう世界」から「この世界」にやって来て… 「ちがう世界」は「この世界」より時間が遅いためレオは消える事は無かったが… その代わりに、身体が重く…地面に吸い込まれる錯覚に襲われていた! レオは、インターコンチネンタルホテルのソファに座り休んでいた。 「レオ、調子はどうだ…?」 「俺が「ちがう世界」にいた時と違い、身体が消えることは、無いはずだが…」 「やはり、「この世界」の時間と「ちがう世界」の時間が進む速さが違うためなのか?」 「涼!レオはね、「この世界」に来る前から、涼が消えた様に…」 「身体に異変が出るんじゃ無いかって…」 「なんとなく、わかっていたんだ」 「それはね、「この世界」から「ちがう世界」に迷い込み…」 「涼の身体の部位が徐々に消え行くのを観ていたから…」 「涼が「ちがう世界」で身体の異変があった…」 だから、レオも「この世界」で異変が来るとこを覚悟していた。 あえて、ふれなかったが…レオの落胆は、身体の異変だけでは無く… ロイ、ヨウは闘い後… 「剛!人質のマインドコントロールを説いて、「のん」は人質の心を解放させられるのか?」 「今、「のん」がテレパシーで、人質の方と…交信しているんですが…上手く行かないと言っています」 「やはり、ロイ本人から、マインドコントロールのキーワードを聴けなかったからか?」 「それは…問題なかったんですが…」 「剛…それじゃあ…何が問題なんだ?」 すると、「のん」が黄泉の国からテレパシーで、剛、レオ、俺に交信して来た! 「あのね、テレパシーで人質の方の…マインドコントロールを説き、心を解放させるのは…難しいの…」 「それは、キーワード「アナタハ ワタシニ シタガウ」はロイの暗示の了解が無くても、大丈夫なの…」 「でも、やはりテレパシーでは…思ったように、人質の方へ響かないの…」 「…「のん」それじゃあ打つ手はないの?」 「大丈夫よ、剛、一つだけ打つ手はあるわ…」 「少し難しいけど…剛なら…」 俺は、人質のマインドコントロールを説き…心を解放させるが…そんな事が出来るのか? 全く分からなくなった! 「剛、「のん」が言っている事…俺には、さっぱり理解できないぜ?」 「人質のマインドコントロールを説き、解放するには、清い心の聖者で無いと…それは…」 「剛の恋人「のん」じゃないと務まら無いの?」 黄泉の国から「のん」の交信は、 現在途絶えていたが… 突然… 「剛!わたし「のん」わたしの代わりは、剛、貴方しかいないの!」 剛は、唖然としていた! 「マインドコントロールを説くキーワードは…」 「ロイの声を心から、断ち切るだけで…心を解放する事は出来ないの…」 「人質のマインドコントロールを説くには…キーワード「アナタハ ワタシニ シタガウ」を…」 「テレパシーで交信して、問題無く対応できたの…でも…」 「人質の心を解放させる事は出来なかったの…」 「キーワードでロイからの洗脳は解除されても…人質の心に住み付いた…」 「ロイが行った残酷なシーンが…」 「脳は解除されても、心はやはり、テレパシーでは無く…言葉で説いてあげないと駄目なの?」 「そこで、わたしは…剛…貴方なら…大丈夫と?」 「…「のん」どうして、大丈夫なの?」 「それは、剛がわたしと結ばれてたから!」 「剛、貴方は、「この世界」で一人…清い心の聖者なのよ!」 俺は鈍感なのか? 剛が、清い心の聖者である事に気が付いていなかったのであった。 剛は、自分が「清い心の聖者」である自覚がまったくなかった。 剛は、「のん」に従い、インターコンチネンタルホテルで…「のん」から送られるテレパシーが人質に… しっかり浸透しているかの確認をしていた。 「のん」が言うように、人質のマインドコントロールを説く…事は出来た… キーワード「アナタハ ワタシニ シタガウ」を人質に伝えて… 人質の頭の中のマインドコントロール…を説く事は完了したが…ロイが残した、残酷なシーンが人質の心に住み付いたいた… 「わかるわね、剛!」 「わたしが、剛に事前に送ったメッセージを心を込めて…」 「人質に説くいてほしいの…」 「ケアが出来たか…確認は…」 剛は、「のん」から重要な役目を与えられた。 そして、人質の心を解放する為に… レオは、相変わらず口数が少なく元気が無かった。 「この世界」に来てゲームを行なっている中、身体に変化が現れた。 やはり、その原因は「この世界」は「ちがう世界」より時間が遅い事と…レオは、闘いに集中していた事から…「この世界」の時間の遅さからくる、老化を忘れていた。 ここで、一段落した事から…今迄の老化が一気に現れたのであった。 あとは、ロイとの闘いに於いて… それは、五時間前の事だった… 山下公園のバトル場は、雪が降り続き、ロイチームのヨウ、キョウコはギブアップの意志を固めたていた… ロイも闘いをやめる事は、わかっていたが… まだ、ロイは自分の気持ちに素直になれず… 「俺は、「この世界」を支配する為に…」 ロイは、独り言をつぶやいた? そしてロイとヨウは落ち葉で暖をとり俺達のもとにやって来た。 そこで、ロイは有り得ない行動をとった… 俺とヨウは初めて言葉を交わした。 闘いに於いて、ある意味友情的な事が…口数は、少なかったが…ヨウの気持ちにがわかった! 「ヨウ!敵であったが…素晴らしい奴だなあ…」 「俺…」 「こんなに自分が充実したのはじめただぜ」 「そうか、涼…ありがとう…」 「俺も同じ気持ちだなぁ~」 こんないい話でも、やはりヨウの違和感がある口調は変わっていなかった。 俺とヨウがこんな話をしていた時… ロイ、キョウコは、少し離れた噴水広場にいて、ロイ、ヨウが俺達と話しあってくる事を了解していた。 しかし、これがロイと最後の別れになるとは…夢にも思わなかっただろう… 俺達とロイ達は、落ち葉を囲み暖を取っていた… 雪はかなり、降り続いていたが、ナタネ油の効果もあり落ち葉による焚き火は、直径3メール程になっていた。 俺達とヨウは闘いに於ける話しが尽きなかった。 レオは、疲れ果ててしゃがみ…焚き火の向こう側にいる、ロイを睨み付けていた。 「この男が…父さんを…」 レオは、疲れ果てていたが、「ちがう世界」に於ける…ロイへの父親に対する行為…が…脳裏をよぎり憎悪から…レオは…斬鉄剣を握りしめていた! レオは、感情が高ぶっていた。 ロイは、「ちがう世界」に於いて、私欲のため… かって同僚だったレオの父親テクを植物人間にしていたからだ。 それは、テクは能力が優れ、人間性も豊かであること… もう一つの理由は、ロイが恋したイマ(現在レオの母親)はテクと結ばれた事から…ロイは、テクに嫉妬していた。 ロイは、人の痛みを知らないサイコパスであり、どうしてもテクの脳を調べたかったので… 「ちがう世界」で権力を掴み… テクの脳と身体を分け、植物人間としていたのだった! 「レオ!デカくなったなあ」 ロイがレオに話し掛けた始めの言葉は、詫びではなかった? 剛は、人質の心を解放することを「のん」に言われ、決意した。 「剛ならできるわ、落ち着いて事前に渡した、メッセージを心の中で…」 「繰り返して、人質の方に語りかけ…説いてほしいの…」 「剛!メッセージは…」 「大丈夫ね!」 「うん!「のん」大丈夫だよ!」 「メッセージは…」 「アナタノ ココロハ カイホウ サレタ 」 「コレハ スベテ ゼンウチュウ ノカミガ アナタヲ 」 「ミマモリ マモッテ クレテイマス モウ スベテノ アクムハ キエマシタ」 「…「のん」このメッセージを人質の方伝えるよ…心を込めて…」 「剛!頑張って…」 黄泉の国から「のん」の協力を得て… 剛は、約30人の人質の心を解放する為…人質が集められた部屋に向かった。 ロイも焚き火の向こう側のレオを観ていた。 レオとは違い、ロイには殺気が感じられなかった。 沈黙がどのくらい続いただろうか? すると突然…レオが斬鉄剣を握りしめ… 「ロイ…何故だ…父さんを…」 レオの問いかけに、ロイは答えることなく、俯いていた。 それでもレオは、ロイに問いかけた。 「父さんに何故あんなことを…」 ロイが重い口を開いた… 「今となっては、返す言葉がない?」 「俺は…「この世界」にやって来て…」 「…「ちがう世界」とは…」 「何を言っても、言い訳にしかならないな」 「レオ、「ちがう世界」を支配していた時…俺なりに…」 「俺のダークな…世界を築くために…必死だったんだ…」 「あとは、お前の母さんイマと一緒になった…お前の父さんテクへの嫉妬だ…」 「ロイ…貴様…勝って過ぎる」 レオは怒り…斬鉄剣を握りしめロイめがけて突進した。 レオが斬鉄剣を振り下ろす…瞬間 ロイは… 噴水広場で観ていたキョウコが悲鳴を上げた! ロイが自ら取った行動は、燃え上がる炎…焚き火に身を投じることだった! それを観て「ハッ」気づいたヨウは…止める事なく…炎の中のロイの頷きに従い、ヨウも自ら焚き火の中に身を投じた… キョウコが慌てて、焚き火に駆け寄ったが…炎は、ロイとヨウの衣服を炎上させていた。 「誰か……助けて!」 キョウコが叫んでいる。 その時、炎の中からロイの声が聞こえて来た。 「レオ…悪かったな…」 「あの時の俺は…狂人だった…今はキョウコを愛して…か・わ・れた…んだ…」 「もう、全て遅いな…」 すると、ロイとヨウは炎の包まれ…たが?焼ける事なく…忽然と、時空に吸い込まれるように、消え去ったのであった。 俺もキョウコも唖然とし、この状態を理解できないでいた。 レオは、戸惑いを隠せきれず…目が泳ぎ、口がだらし無く半開きで炎を見つめていた。
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