心霊体験

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   あれは俺が高校3年生の時に起きた出来事だ。  受験生になった俺は真面目に夏休みの間受験勉強に明け暮れていた。  八月に入りお盆の季節のことだ。  急に父親が今年のお盆は先祖参りに行くと言い出した。  仕事の関係で何年も行けなかったことと、今年から寝たきりになってしまった祖母のお見舞いも兼ねて、俺達を連れて里帰りとなった。  俺は今年受験でそんな余裕がないことを訴えたが、勉強なら帰省先でも出来ると言うことで取り合って貰えなかった。  冗談じゃない此処からおばあちゃんの家までどのくらい掛かると思ったんだよ。愚痴を言うことしか出来ない悔しいが。  母はと言えば、ちょっとした旅行気分ではしゃいでいる。  いい気なもんだ。  そう言えば今日はどういう道順で行くつもりだろう?  少し時間は掛かるだろうけどせめて高速を使って欲しいよな。 「なあ親父、ばあちゃん家ってどうやって行くんだよ」 「ん、なんだ?」 「いや、高速使っていくんかなってさ」 「ああ、そういう事か。高速は使わんぞ。なんせ今年また値上げしたから料金がもったいない」 「えっ、じゃあやっぱあの山道通る気?」 「ああそうなるな。国道15号線を使ってトンネルを抜ければすぐ隣の県に行けるからな」 「マジか、愛岐道路で行くのかよ……」  冗談じゃない。あそこは心霊スポットで超有名な場所だ。  古虎渓(ここけい)トンネルもそうだけど、なんか途中で通るラブホとかは特にヤバいって聞いたことがある。どっかの部屋で自殺者か私情の縺れで殺されたとか何とかで、今もそこの部屋だけがワンコインで泊まれるらしいのだ。  まあ、まだ学生の俺が入る機会はないが、例えあったとしても入ろうだなんて思わない……なんせ出るってんだから、誰が好き好んで行くかって話。 「おい、何をボー〜っとしてる。もうそろそろ出るから適当に着替えとか母さんに渡して、出発するぞ」  やはり子供の俺には選択権がないらしい。 (あそこ昼間でも暗いから嫌なんだよな〜〜)  この間大雨が降ってたはずだから、通行止めとかになってないのかなと、俺は一縷の望みを託しネットで交通情報を調べた。  マジか……。  天にも運を見放された気分ってのは、きっとこう言うことを言うのだろう。  どうやら既に道路は整備され、交通止めはないとのことだ。  あの雨でも特に崖崩れは無かったってことだな。  いや、そもそもこっちは雨が勢いよく降ってても、あの場所ではそこまで雨が多く降っては居なかったもしれない。  今はそんな事はどうでもいい、コレから車で川沿いの廃旅館や謎のワンコインラブホの看板だとか見て、なんとも不気味なトンネルを通ることは決定事項なのだから。  ただ幸いネットで調べた所、ここ以外にもっとヤバいトンネルが存在するらしく、通称朝〇トンネルだの、そこが口裂け女の発祥地だのと書かれており、今日通過するトンネルがそのトンネルじゃないと言うことを分かっただけでも少しほっとした。  出発してから凡そ30分を過ぎた頃、某お嬢様学校の女学院が近くに有る踏切を通り過ぎると、よいよ車はナビの案内に導かれ山間に入る。  先程まで晴れていた天気も、愛岐道路に入ると一気に暗くなり、曇りそして雨がポツポツと落ち始めた。  いつもなら平気な雨音も、この場所で聞くと何故だか不気味に聞こえる。  ボトボトボトボト  嫌に鈍い音が車のルーフを叩く……本当に水が落ちているの。そう思わずにはいられない。  ワイパーの動きがだんだんと速くなる、本格的に雨足が激しくなって来た。  ザーーーーーーーーー  ゴロゴロゴロゴロ  携帯を開いて現在の天気を確かめる。  表示は晴天となっている。  ゴロゴロゴロゴロ  いや、何処が晴れだよ!?  思わずそう突っ込みを入れたくなるほど、天気は荒れて行く。  まるで此処の空間だけ別次元じゃ無いのかって思えるほど空気も冷え込んできた。  本当に八月かよ。  例の飴のような名前の廃旅館が見える。  見ないでおこうおこうと思ってたのに、雨やら雷が気になり、外を眺めていたせいで見るはめとなった。  川向こうに不気味に聳え立つ建物が、雨足が激しいにも関わらずくっきりと浮かんで見える。  気持ち悪いので目を下へやると、さっきまで浅かった水量はもう一気に上がっており、水の色が濃い緑色へと変わっていた。  ……ンゴクッ  俺は思わず生唾を呑み込んだ。別に車の窓越しから見てるので、そこに引き込まれることは決してないが、川というものは不思議でブルっと寒気がする。実際にニュースでも見るが、毎年何名もの人が川に足を取られて亡くなると聞く。しかも奇妙なことに浅瀬でである。水かさが増したところでもないのに、足をそのまま水底へと引っ張られてしまったのだという。  しかも生還した人の話では、誰かに足首を掴まれ引っ張られたと口にする人が大変多い。そう言えば、俺の友人の一人もそんなことを言っていた。  ━━トントン  そんなことを想い出している時、急に誰かが俺の肩を叩いてきた……。  いや、誰だ?  車の中は3人しかいない……。運転席に親父で、助手席にはお袋が座っている。もしも、俺の右肩を叩いたのであれば、お袋なんだと理解できる。でもさっき俺の肩を叩いたのは、シート側に向いている左肩だ。例え手が届いたとしても、わざわざ左肩を叩くような人は居るわけがない。まして、俺の家族に限ってそんな奇妙なことをする人間はいない。  誰だ、誰だ、誰だ、誰だ……。 「ねえ、寂しいの。もうすぐのとこだから、ホテルに来てお願い。寂しいの」  振り向くと、そこには見知らぬ20代くらいの女が俺の隣に座っていた。  ドラマで見たような紐の痕がくっきりと紫色の痣として浮かびあがっていた。  これがもし、普通に生きていれば艶めかしい姿なのだろうけども、幾ら肌がはだけていても生気を失った女性に欲情する人間などいないだろう。ドラマとか映画で見るような白い肌なんてのは出鱈目でしかない。目の前には黒ずんでいて土っぽい女が俺の両肩を掴み揺さぶって来た。 「わぁあああああああああああああああああああああああああああ」  ハッハッハッハッ……ハッハッハッハッ 「どうしたんだ、ひろかず」 「もぉーーびっくりするじゃない。なんか有ったの?」  ……夢。 「大丈夫か? 母さん一旦休憩にしようか」 「ええ、もう少しで多治見に着くけど、なんかこの子悪い夢見たみたいだし、一旦休憩しましょ」 「ご、ごめんよ。父さん、母さん」 「いいのよ~~そんなこと。ねえ、あなた」 「ああ」  俺は窓を見た。雨はまだ降っていると思っていたが、今はもう止んだらしい。  きっと、怖い怖い嫌だ嫌だって思っていたから変な夢を見たのかもしれない。  でも、こんな道の途中に停車させて大丈夫なのだろうか?   少し川沿いに開けた場所があるが見える、多分そこに停めるのだろう。 「ねえ、父さん。あそこの辺りに停めんの?」 「いや、川沿いは雨が止んだばかりだ」 「そうよ、スリップして万が一川にだなんて危ないじゃない。停めるなら反対側よ」 「そっか、そうだよね」 「ええ、もうすぐ建物が見えてくるからそこでゆっくりしましょ」 「建物?」  ちょっと待て、もうすぐ現れる建物って例のラブホじゃないのか……。 「おい、親父!? なんでラブホに向かってんだよ」 「何って? そりゃあ休むために決まってるだろう、なあ母さん」 「ええ、三人ならきっと寂しくないと思うの」  はっ?  ……寂しくない?  そういえば、さっきから前ばかり向いている。  親父は車を運転するから分かるけど、なんで母さんはこっちを向いて喋らないんだ。 「なあ、母さん」 「なあに、ひろかず」 「本当に俺の母さんなんだよな?」 「…………」 「なあ、ちょっと聞いてんじゃん」 「……そうよ」  何だ今の間と声は。 「じゃあ母さん、話すんならさ、こっち向いてくれないかな?」 「どうして?」 「そりゃ――本当に母ちゃんか確かめたいからに決まってんだろ」 「そう、分かったわ。これでいいかしら?」 「いや、おっお前誰だよ?」  先程悪夢の中で見た女が、今度は母さんが座って居る筈の助手席にいた。 「おっ、親父、親父」 「どうしたんだ、ひろかず。母さんがどうかしたのか?」 「あっ、あっ、あっ、あっ」  どっ、どうなってるんだ。お袋と思っていたのが、さっきの女で、親父と思っていた男が、全く知らない男。冗談はやめてくれ、嘘だろ、こんなの、ばあちゃん家に行くはずだったのに。なんで、なんでこんな体験しなくちゃならないんだ。 「くっ、来るな、来るな、来るな」 「何を怯えているの? ひろかず」 「そうだ、何を怖がっているんだひろかず」 「「一緒にいれば寂しくなんかないんだよ」」  やめろ、やめろやめろ、俺に俺に触れるな。触るな。 「わぁあああああああああああああああああああああああああああ」 「どうしたんだ、ひろかず」 「ひろかず、どうしたの?」 (はっ、親父にお袋…………あれも、夢) (これも夢……じゃないよな)  ━━One.  ━━Hello, this is New York Blue Rail Way restraunt, Mark speaking  ━━Hi, I would like to book two tables today's dinner, Are there any still availble?  ━━Well, wait a.... 「一体どうしたというんだ、悪い夢でもみたのか?」 「もぉーーいきなり後ろから大声で叫び出すんだから、びっくりするじゃない」 「ご、ごめん」 「もおすぐおばあちゃん家に着くぞ」 「あっ、うん……」  俺はどうやら愛岐道路に入って暫くしたら眠っていたらしい。受験も控えていたので、イヤホンで英語のリスニングをしていたら、知らない間に疲れて寝ていたのだ。  その後おばあちゃんの家に着いたあとは何事もなく、次の日にはお墓参りをし、そして暫くは田舎でのんびり過ごすこととなった。もちろん俺は受験が控えていたので、朝早く起きてちゃんとしっかり受験対策の勉強をしていた。このままあと2日おばあちゃんの家に滞在し、その次の日に家へと戻る予定のはずだった。  まるで自分の家に戻ることへの嬉しさで興奮して眠れない子供のように、俺はその帰宅する前日に奇妙な体験をすることとなった。  親父の実家は山間に近く、比較的夜は涼しいのだが、その日だけやけに蒸し暑かったのを覚えている。無性に喉が渇いたので、居間にでるとテーブルの下に置いてあるペットボトルを一つとると、キャップを開けて飲んだ。  カッコカッコカッコカッコ  普段は気付く事のない時計の針の音、時間をみると深夜1時半を回る頃だ。外では田んぼのカエルの合唱やらが聴こえる。暑かったので俺は縁側へ向かうと、暫く庭で涼むことにした。  リーーリリーーリ――――ン  リー―ンリー―ンリリー  都会では決して聞くことのできない自然の音。耳を澄ますと所々で鈴虫が鳴いている。なぜだろう、こういう音を聞いていると自然と瞳を閉じてしまう。そしてとても癒される。  心地よくなったので、さあ寝るかと思ったが、大自然はそうはさせてくれない。瞳を開けると、気付かなかったが、無数の星が空に浮かび上がっていた。プラネタリウムなんて比べられないほど、とても綺麗で、気が付いた時には縁側から庭へと足を運んでいた。  いつも都会で見る星は一つか二つ程度しか見れない。空はそんなものだと思っている自分がいたが、此処に来て空は宇宙(そら)なんだって思うほど自分の中の何かが変わった気がした。 「綺麗ですよね」 「ええ……」  って、誰? というか空の星を見ているうちに知らない間に自分は道路に出ていたらしい。しかし、こんな時間になんで居るんだ? そう言う俺も同じか。 「あっ、ごめんなさいね。驚かすつもりはなくって、星を見てたらつい」 「いえ、あなたも星を見るために外に出て来られたんですか」  それにしても綺麗な人だ。都会だと絶滅したピュアな感じがこの人には漂っている。 「いえ、そうじゃないんですけど。あっ、そうだ。お時間あります?」 「えっ? まあ、はい有りますけど、何か?」 「あの、お願いが有るんですけど、今実は皆で集まって百物語してるんですね」 「百物語?」 「はい、それで九十九人は集まったんですけど、どうしてもあと一人足りなくて困ってたんです。よかったら、百人目になって貰えませんか? どんな怪談話でもいいので、お願いっ」  なんかお誘いがあるのかとおもったけど、まさか百物語とは……。  あっ、でも夏休みだもんな。きっと皆でワイワイと楽しんでやってるのかな~~。  お姉さんと二人きりじゃないのは残念だけど、せっかくの夏休みだし一日くらいいいか。  俺は了承すると、彼女に連れられて近くのお寺へと向かった。 「急なお願いなのに、ありがとうございますね。私の名前は柏木由紀子(かしわぎゆきこ)っていいます。あなたの名前は?」 「俺の名前は、佐藤博一(さとうひろかず)です」 「ひろかず君って言うんだ。よろしくね」 (笑顔が可愛い、ひと夏の恋がしてーー)  彼女はそう言うと、俺の手を取りにっこりと微笑んだ。女の人の手って想像以上にやわっこくて気持ちいい。 「へえーーこんな所にお寺が有ったんだ」 「うん、有るよ。百物語には持って来いのお寺でしょ?」 「確かに雰囲気ありますね」 「でしょでしょーーじゃあみんなが待ってるから、お先にどぞどぞ」  襖を開けると、少し薄暗い。蝋燭をそれぞれ皆が持っているのか、部屋は幾分か明るかった。 「おお、ゆきちゃん。100人目が見つかったんだね」 「ありがとう、ゆきちゃん。これでようやく終わるな」 「ああ、これで無事に百物語が終わる」  よく見ると年齢は様々で、お年寄りはもちろん子供までいる。この村挙げてのイベントなのだろうか? おばあちゃん達は参加しなかったってことなのかな、それにしてもあんな小さな子供まで参加だなんて、もう時間的に深夜二時くらいじゃないのか?  俺は由紀子さんの隣の席に着くと、さっそく百物語がスタートした。正確に言うと、もう半分以上話が進んでいた。怪談といっても怖い話から面白い話と人によって多種多様だった。どうやら話が進む順を見て行くうちに気付いたのだが、どうやら由紀子さんが九十九番目で、俺がラストらしい。 「いや、普通に怖かったっす」 「そお、驚かしすぎちゃったかな~~」 「いや、由紀子さん綺麗なんでOKっす」 「ええ、なにそれ~~」  百物語って聞いて、物凄く怖いのかと思ったが、これだけ人が居ると不思議と怖く無かった。人によっては俺と由紀子さんをイジル人も居て、『そんな仲いいなら、カップルになっちゃえーー』なんて言われた。彼女はどうか知らないけど、俺はまんざらじゃなかった。良ければ、明日というか今日の朝デートをしたいくらいだった。  そしてとうとう俺の番が来た。そう、百物語の締めだ。 「それじゃあ、ラストの100話目お願いします」 「よっ、待ってましたっ!?」 「ほんとに待ったよな~~」 「何言ってんだよ、俺のが方が待ったっつうの」 「はあ、あんたらまだ若いもんが何をいってんのよ」 「いやぁ~~本当にありがとな」 「「「「「ありがとうーーーー」」」」」 「いやそんな、別にたいしたことないんで。なんか照れるっす」  アハハハハハハハハ  俺は過去一度だけ霊体験をしている。それは大好きなペットの犬のクロが亡くなってから49日目の夜、俺に会いに来た話だった。 「━━というのが、俺が体験したクロとの想いでの話です」  ラストの話でしかも百物語の怪談話なのに、全然怖く無い話で申し訳ないと思ったのだが、所々からまるで雨粒が落ちるかのように泣き声が聞こえてきた。泣き声に混ざって、『ありがとう、ありがとう』と言う声がちらほらと聞こえる。遠くの方からフッフッと蝋燭の炎が消えて行く。恐らく、話をした人から順番に消していくみたいだ。 「じゃあ、私の番だね。99番目消すね、本当に今日はありがとうね。ホント感謝してる」 「いえ、こちらこそ……」  こんな楽しい時間を過ごせて俺は感謝していた。今は何時くらいだろうか?  流石に朝からはきついので、お昼から彼女とデートが出来るといいな~~なんて一人で思っていた。断られるかもしれないけど、これが終わったらダメもとで頼んでみよう。  ……そう俺は思っていた。 「じゃあ、最期の一本よろしくね」 「あっ、はい」  フッ   ━━━━ありがとう━━━━  最期の蝋燭を消すと、辺りが物凄くシーーーーンと静まり返った。  すっかり灯りが消えたので、境内はすっかり真っ暗闇の空間へと変わっていた。 「由紀子さぁ~~ん」  俺は暗闇の中、彼女の名前を呼んだ。 「あれ? おかしいな。由紀子さん、由紀子さん?」  反応が無い。 「あのぉ~~誰かいませんか?」  奥の方へ届くくらい声を投げかけても、そのまま音が吸い込まれるように消えていく。俺は百物語も終わったので、ポケットに入れていた携帯を取り出すと、辺りを照らして彼女が何処に行るのか? 探すことにした。  一瞬チラッと何かが光った。携帯を左右に振ると今度は所々でキラッキラッと何かが携帯のライトに反射する。俺は反射するそれがなんなのか近付いて確かめることにした。  驚かずにはいられなかった。 「嘘……だろ、此処って…………」  そう、俺はずっと墓地にいたのだ。何故だかは分からないが、不思議と怖さはなかった。  まもなくすると朝日が昇りすぐに辺りが明るくなったので、おばあちゃん家に帰ろうと家の有る方角へと振り返った。  ふと一つの墓に目が吸い寄せられた。  そのお墓の横には見慣れた名前が彫られていた。  柏木由紀子と……。 ********************** 最期までお読み頂き( . .)"有難うございます! 宜しければ別の作品もお楽しみください。 その他ホラー 四葉のクローバー https://estar.jp/novels/26123384https://estar.jp/novels/26130577 風も無いのに・・・・・・ https://estar.jp/novels/26123403
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