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青年は咄嗟にリュックを後ろ手に隠し、背筋を伸ばした。
学長は切れ長の目で青年を一瞥した。
かれを見上げた青年は、その瞬間、思わず息を呑んだ。
ぞっとするほどに冷たい眼差しだった。目つきが鋭いだけではない。瞳の色が、凍てついた氷のような銀色なのだ。
「……マ、マリオン・イーリスです」
青年マリオンは、ようやく声を絞り出した。
「アルマーズ・リースチヤ。ここの理事長兼学長だ。敬称はいらん、ジジくさくて嫌いだ。ただ、学長、でいい——かけなさい、かしこまる必要はない」
早口に言う間にもせかせかと窓辺へ足を運んでいたアルマーズは、そのままぷいとマリオンに背を向けてしまった。キャビネットの引き出しを開け、ぶつぶつ言いながら中身を物色しはじめる。
しばらくそうやってからくるりと振り向いたかれは、やはり青年には目もくれず、今度は選び取った数本のネクタイをデスクの上へ並べはじめた。
面接に来たはずなのに……この時間もなにかテストされているのか?
マリオンは不安を覚えつつ、じっとアルマーズを見つめた。
その容貌は立派な体格に不釣り合いな、色白の下膨れ気味の童顔だ。東アジア料理店で出てくるフカフカの饅頭を連想させる。硬そうな黒髪の分け目はきっちり7:3で、白髪は一本もない。
いったい何歳なのだろう?歴史ある名門校の学長というからには、仙人のような白髪の老人か、でっぷり肥えて脂ぎった中年男が現れると想像していたのに、かれはあまりに若すぎる。
視線を手元へ移す。
どうやら、ネクタイの色を濃いものから薄いものへ順にしているようだ。神経質そうな所作のひとつひとつが、さっきまでマシンガンのように汚い言葉を連発していた人物のものとは思えない。
アルマーズは散々悩んで、ようやく配置に納得したらしい。
腕を組んでうんうんと頷くと、唐突に言葉を発した。
「バストーク州立第34学校のサバク校長、やつにテレビカメラの前で謝罪させたのは、きみだろう?」
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