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 この男はあまりに異質だ。  若いかれを見て、マラザフスカヤ家の若倅が跡を継いだに違いない、とマリオンは勝手に納得していた。姓をリースチヤと名乗ったが、きっと分家なのだろう、と。  ところが、とんでもない曲者だった。  長い歴史をかけて学園を蝕んだ毒を中和できるのは、さらに強力な毒だけ。  だとすれば、きっとアルマーズ・リースチヤほどの毒はない。バストークの森に生える神経系毒キノコのように、ぴりぴりとした刺激が笑いにすり替わるような、明快で、しかし致死性のある強力なやつだ。  マリオンはネクタイとアルマーズを交互に見て、答えた。 「どれも似合いませんよ」 「似合うかどうかはどうでもいいんだ、要はやつらが気にいるかだ。特に身だしなみにうるさい“女王”がいてな」 「女王?」 「ああ、学長選の結果をも左右する実力者。去年の学長選の勝因は、彼女を味方につけたことだ」 「学長になって半年、というところですか。遅かれ早かれ、主導権はあなたにあるとわからせる必要が出てくる。好きなネクタイをしたほうがいいのでは?」 「ふん、連中の頭の硬さときたら、3日放置したフランスパンどころじゃない、うまく転がしておけばいいのさ——だが、まあいいだろう、参考までに聞いておく、たとえば何色だ、おれに似合うのは?」 「そうですね……青、とか。極北の夜空のような、濃い青」 「青? 青はないな」ネクタイから顔を上げたアルマーズは、あ、と気づいて、「きみみたいな?」  マリオンは顎を引いて自分のネクタイを見た。  まさに思った色、というより、この色が頭に残っていただけかもしれない。
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