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 突然、マリオンがアルマーズに抱きついてきた。  咄嗟のことに身体を支えきれず足元がふらついたアルマーズは、出窓の横の壁に背中を強かに打った。  その直後、窓ガラスがぴしっと音を立て、反対側の壁際にあるキャビネットのガラスが割れた。  アルマーズは目を丸くして、 「い、いまのはなんだ?」 「動くな、撃たれました!」 「撃たれた?!」  けたたましい非常ベルの音が建物中に鳴り響いた。  職員室側の扉がノックされ、さっきの女性職員が怯えた様子で顔を出す。 「学長、警報が」 「入ってくるな、全員避難!」 「ドアを閉めて!」  壁を背に重なり合ったふたりが同時に怒鳴った。  女性職員は驚いて首を引っ込め、バタンと扉を閉めた。 「あれはプロだ」とマリオンがつぶやく。 「プロだと……?なんてこった、まさかあの野郎、殺し屋でも雇ったか!」  アルマーズはマリオンを押しのけると、小さなひびの入った窓の前に立った。 「こら、なんてことしてくれる、ガラスが割れたじゃないか! ……ん?」  アルマーズは手を広げ、「どこだ、逃げたのか?」とキョロキョロ。  窓の縁から外を覗いたマリオンがアルマーズの腕を引いた直後、また一発、銃弾が飛び込んだ。 「プロだって言ったでしょう、なんて真似するんですか!」 「止めようとしたんだ、おいセキュリティー!」 〈お呼びですか〉  天井付近から、妙に落ち着いた若い男性の声が降ってきた。  その声は、マリオンを正門からこの執務室まで案内したのと同じだった。 「裏の森にはだれもいないのか!」 〈熱探知に人間らしき姿は確認できません〉 「よし、校内の全生徒に避難指示、だれも森へ行かせるな!」 「子どもたちがどれくらい残ってるか、わかりますか?」 「寮生が27人」アルマーズは即答。「あとは、今日は午後から中等部のフットボール大会があるんだ、きっともう体育館に集まっている。——いったい、どこから狙ってるんだ?」 「湖の上です」 「湖の上って……森の奥の?あんな遠くが見えるのか?」 「その……眼鏡の性能がいいので。そんなことより、警察を呼ばないと」 「警備システムがとっくに通報している」 「まさか、前にもこんなことが?」 「さすがに撃たれるのは、はじめてだ」  アルマーズは身を屈めると、デスク横まで這っていき、ギターを掴んだ。上着を脱いで本体部分に着せ、それを上に掲げる。  と、そこへもう一発。  デスク上の水差しに命中し、ガラスが砕け散った。 「なにしてるんです!」 「囮だ!殺し屋が敷地に入ってきたら困るだろ、おれがここにいるとわからせておかないと、ガキどもが危険だ」  そう言ってもう一度掲げると、立て続けに二発撃たれた。  一発は椅子の背を擦り、もう一発は奥の壁に直接めり込む。  あの野郎、とアルマーズが呻くように言った。 「だれの仕業か知ってるんですね?」 「わからん、思い当たるやつはいくらでもいる、フォルマかオーバシか……くそ、警察なんか待ってられんぞ!」 「おれが行きます」 「行くって、どこへ?」 「殺し屋のところへ。おれが注意を引きます。さっきのセキュリティー、かれに湖への最短ルートを案内させてください」  そう言いながら、マリオンは上着を脱ぎ捨てた。 「おい冗談だろ、注意を引くってなにをする気だ、的になるつもりか?」 「素人のデタラメな弾じゃない、軌道は読める——」マリオンは問いに答えるというより自分に言い聞かせてから、「平気です、プロとはいえ腕は二流だ。あんな腕ではおれには当たらない」 「え、ちょっと待て……」  にっこり笑って出ていったマリオンを、アルマーズは茫然と見送った。 「なんだあいつは!なんであんなに冷静なんだ?まあ、契約書はまだ交わしてないから、万が一怪我をしても保障の必要はないか……いやいや、そんなことを考えている場合か!」  大慌てで、アルマーズもマリオンを追って執務室を飛び出した。
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