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 中央校舎の鐘が15時を告げている。  小鳥が鳴き交わしているような、可愛げな弾む音色だ。  広大な校庭にはまだ雪が残り、鳥やウサギの形にカットされたトピアリーも白い帽子をかぶっているが、3月も半ばを過ぎている。学園内のあちこちで春を迎える飾りが風に揺れていた。  ルーイ国民が大事にする祝日のひとつ、迎春祭。  その日に向けて、ここマラザフスカヤ学園だけでなく、街の至るところで似たような飾りつけがされている。太陽を模した色とりどりの毛糸玉を中心に、そこへ日差しに見立てた布切れを縫い込んだものだ。それをてるてる坊主の要領で軒先に吊るしたり、木の棒を通して門前に立てたりする。  鐘が鳴り続くなか、中等部の東棟、高等部の西棟、それぞれから生徒たちがわらわらと出てきた。暖かい日差しのなか、春を待ち望んだ子どもたちの足取りは軽い。  初等部の教室は中央校舎にある。先に授業が終わるかれらはそれぞれの迎えの車でとっくに下校していた。  時計の針がひとつ進み、鐘の音が鳴り止んだ。  と、今度はジャーンとピアノの鍵盤を叩きつけたような不快な合成音が鳴り響いた。  学園中の至る所に設置されたスピーカーから発せられるその音は、学園にいる人間だけでなく、校舎を取り囲む白樺の森に棲む生き物をも驚かせる。鳥の群れが雪を散らしながら一斉に空へ舞うのも、毎日の恒例だ。  その迷惑この上ない音は、放送のはじまりを告げる合図だった。 〈中等部、高等部の生徒のみなさん、警備責任者マロースがお知らせします〉  艶のある若い男性の声が、澄ました口調で告げた。  この音心臓に悪いよ、などという生徒の不平など取り合わない。 〈下校時間となりました。学園祭の準備等の用がない方は速やかにお帰りください。寮生の方も同じく、校舎内での暇つぶしはやめてください、電気代の無駄です〉  マロースの放送は1日に2回、初等部と中・高等部の下校時間に合わせて行われる。  生徒たちはまずジャーンで驚かされ、というより、放送に気づかなかったという言い訳は通用しないぞ、と脅されて、耳を傾けざるを得なくなるのだ。
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