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 マロースは学長そっくりだな。  冷めたミルクコーヒーを一口すすり、イアリート・カマールは思った。  まだ心臓がドキドキしていた。  この学園へ来て2週間、いまだマロースの放送に慣れない。  “ジュードー”で鍛えた熊のような体躯をデスクに押し込んでパソコンに向かっていたかれは、その容姿に似合わず、ハートはデリケートだった。  学園内のキオスクで買ったシナモンロールを無骨な太い指で摘み、口へ運ぶ。 「マリオン!」  イアリートはびくっとしてシナモンロールをデスクの上に落とした。  声がしたのは学長の執務室だった。その甲高い声は学長本人に他ならない。  困った顔で職員室を見回すが、イアリートのほかにだれもおらず、もちろんマリオンの姿もなかった。  中庭に面した大きな窓から柔らかな日光が差し込んでいる。  学長の執務室と職員室は“離れ”と呼ばれる旧校舎にあり、小さな中庭を挟んで本校舎と渡り廊下で繋がっている。普段から生徒の姿はまばらで、建物内は静かだ。  天井が高く室内は広々としているが、ずらりと並んだデスクはどれも書類や教科書、参考書の類が積まれ、雑然としていた。  放課後、職員の大半はティーブレイクをとって中央校舎一階の食堂や校庭、職員寮といった思い思いの場所で休息している。  イアリートだけがひとり、居残りを食らった気分で仕事を続けていたのだ。今日中に、受け持っている高等部一年の物理の抜き打ちテストを用意しなければならなかった。  これは生徒ではなく、新入りのおれに対する抜き打ちだ、とイアリートは戦々恐々としていた。なにしろ、今朝いきなり学長から明日のテスト実施を言い渡されたのである。  いかに生徒各々の実力を把握し、今後の授業を進めるか。教師の腕が試される。気が重い。食欲が湧かず、昼食は喉を通らなかった。  せめて好物を食べて気分を変えようと思ったのに、それさえも邪魔する気なのか。  イアリートは書類の束に隠れるように身を屈め、シナモンがべっとりついた指を舐めた。
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