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 執務室の電話が鳴った。  学長に代わって、デスク上の受話器をマリオンが取った。 「はい、マラザフスカヤ学園学長室です——お待ちを」  通話を保留にしたマリオンは、アルマーズを見た。  ルーイ帝国時代から著名な学者や政治家を数多く輩出してきた国内随一の名門校、そのトップでありマリオンの上司でもある学長はというと、青いラメが煌めく派手なジャケットに身を包み、ギターを抱えて鏡の前でポーズを決めている最中だった。 「学長、ナウカ教育出版の社長です」  アルマーズは振り向きもせず、右手をマリオンに向かってひらひらさせた。  助手は慣れたもので、その手に受話器を握らせ、保留を解除してやる。 「高等部の教科書の件なら、答えは変わりませんよ——なにが問題だって?中世から近代に至るすべての章が問題だらけだ。特に近代、先の大戦におけるルーイの戦争犯罪を丸々カットした上に連邦構成国の解放を美化した記述、あれは懐古主義の現政権に媚び売るプロパガンダだ。あんなもん教科書とは呼べん——なにが事実だ、あんた初等学校も出てないのか?」  挨拶もなしにはじまった応酬に、マリオンは呆れて首を振った。  アルマーズは学長に就任して間もなく、教科書をすべて変更すると宣言していた。これまでは公立校と同様、国の認可が降りた教科書を当たり前のように使用していたが、新学長はそれを、役に立たん、と一蹴したのだった。  しかし、国の息がかかっていない出版社を探すのは困難を極めた。  もはや自分で作ったほうが早いのではないかとさえマリオンは思っていた。学長なら苦もなくやってのけるだろう。こうやって月に一社のペースで敵を作るより生産的だ。  アルマーズの甲高い声がヒートアップするなか、電話が鳴った。  普段は使っていないマリオンのデスク上で、青いランプが光っている。  内線だ。
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