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その甲高い喚き声は、数名分の足音を引き連れて青年がいるこの部屋へまっすぐ向かってくる。
青年は顔を右に向け、さっきかれが入ったのとは別の扉を凝視した。
「きみたちはいままでなにをやっていたんだ、ジジイの肩でも揉んでいたのか? そんなことで給料がもらえるなら、おれだって毎晩あのくたばり損ないと添い寝してやるぞ!」
「か、会長がお聞きになったら大変……」
「知るか、どうせ耳に痛いことは聞こえないんだ、なんなら拡声器持ってこい!」
まさか、あれが学長だろうか。
青年は足元に置いていたリュックを膝に抱えた。
いざとなったら全速力で逃げるのだ。
覚悟を決め、この部屋へ着くまでに案内された複雑なルートを頭のなかに呼び起こす。
「あのくそジジイ、プライドだけの没落貴族め!毎日毎日居眠りして、あとはミントティー飲んでただけじゃないか。この学園は暇な金持ちの道楽か?」
扉の前で足音は止まり、同時に「いいことを思いついたぞ!」と嬉しそうな声が言った。
「やつを青の革命広場に呼び出してやろう。雪の上に跪かせて、自分がいかに時代遅れか身をもってわからせてやるんだ!」
ひい、と女性らしき悲鳴が上がった。
無茶苦茶だ、と青年も青ざめる。
このルーイという国は革命と戦争を繰り返してきた。学校で自国の黒歴史をきちんと勉強している者ならだれもが同じ反応をするはずだ。それを承知で口にしているのだから、なんて恐ろしい男だろう。
「ああ、くそ忌々しい! ——それで、見積もりは出たのか」
いきなり扉が開いた。
青年は慌てて腰を上げたが、扉を開けた本人はまだ外を向いたまま、「1千万?!」と悲鳴のような声を上げた。
青年は中腰のまま椅子を後ろへずらし、扉の陰にいる声の主を盗み見た。
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