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第壱話 黒蛇アルカディア
「生きている者は早く村の外へ逃げろ!」
草木も眠る丑三つ時の山村。
男の野太い怒声と女の甲高い悲鳴が村中に響き渡る。
泣きわめく赤ん坊と、狂ったように吠える犬の声が耳触りだ。
月光すら塗りつぶす漆黒の闇に、無数の松明の灯りがうごめいている。
風前の灯火である儚い命のように、弱く儚くゆらめいている。
しかしバケツをひっくり返したかのような豪雨の中、一つまた一つと炎が消える。
どこをどう走ったのか分からず、少年の心臓と肺が破れそうなほどに脈動している。
気付けば村を見下ろす高台でへたりこんでいた。
今ははぐれた友達たちと遊び慣れた山へ、本能的に足が向かったのかもしれない。
「お父っつぁん、お母ちゃん、どこに行ったの」
カーンカーンと狂ったように打ち鳴らされる半鐘の音が響く。
避難せずに半鐘を叩き続けることは死を意味する。
勇敢な村人の末路を悟った少年の歯がガタガタと鳴る。
「黒い蛇だ……」
散り散りになりつつある松明で、時折浮かびあがる村は壊滅状態だった。
冒涜的な力で崩れ去った家屋。一瞬で飲み込まれ押し潰された田畑。理不尽な死体の山。
「君は村を救いたいかね」
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