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紺の着物の懐から古びた本が取り出される。
「この古本屋で売られてそうな紙切れが神器だって?」
折口が手に取ると本の周囲の空間が、陽炎のごとく揺らめいた。
「百を超える怪異を封じておる。妖力は折り紙つきじゃから、適性が無ければお主は正気を失い二度と常人には戻れぬぞ」
「かまわないさ、紺の力を借りるよ」
折口が紺に視線を合わせると、紺の瞳孔が紅く輝いた。
形のいい小さな頭から2本の狐耳がぴょこんと生えた。
着物の裾からは、金毛の立派な尻尾が飛び出す。
「覚悟はよいかの折口」
「任せてくれ」
折口が本を手にすると紺がすっと小さく息を吸い込んだ。
「百拾玖の怪異を封じし書物、遠野物語は今開かれり。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」
紺の詠唱に応じて古めかしい本が、意思を持つ生き物のようにぱらぱらとめくれる。
「全てを飲みこめ……千晩ヶ嶽」
呪文が終わると山の空気が一気に生臭くなった。
「なんだこの悪臭は?」
溜らず目を開いた折口は我が目を疑った。
炭焼き窯や薪の山が消え、霧が深く険しい山の風景が出現していたのだ。
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