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心底おかしそうに紺が折口の発言を嘲笑する。
「さて儂はそろそろ山を出るとするかの」
紺が全身を思い切り伸ばしながらあくびをする。
「行く当てがあるのか?」
「そんなものはない。どこかに面白おかしい物でも探しにゆくかの」
「じゃあ僕と旅を続けないかい」
折口の提案に紺は目をぱちくりさせる。
「なぜ儂が人の子と行動をともにせねばならんのじゃ」
「僕は怪異や風習の話を求めて全国を旅している。その過程で今日みたいな神器を扱う事件に遭遇するかもしれない」
「それがどう儂に関係するのじゃ」
「紺は面白おかしい生活を欲しがっている。僕は神器と化した怪異の詳細が知りたい。利害は一致するだろう」
ううむ、と紺が天を仰ぐ。
「じゃが儂は神器と化したものの元は高貴な存在じゃからのう」
言葉を言い終えるかどうかの瞬間に、くぅっと紺のお腹がなった。
「とりあえず一緒に家へ戻ろう。食べものなら僕が保証するよ」
「うむむ、まあ折口がそこまで言うなら。食べ物を無碍にするわけにもいかんな」
ごほん、といかめしく咳払いする紺を折口はほほえまし気に見つめる。
空の厚い雲の裂け目からは、抜けるように青い夏の空が覗いていた。
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