第捌話 誰彼アブダクション

28/29
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/179ページ
 心底おかしそうに紺が折口の発言を嘲笑する。 「さて儂はそろそろ山を出るとするかの」  紺が全身を思い切り伸ばしながらあくびをする。 「行く当てがあるのか?」 「そんなものはない。どこかに面白おかしい物でも探しにゆくかの」 「じゃあ僕と旅を続けないかい」  折口の提案に紺は目をぱちくりさせる。 「なぜ儂が人の子と行動をともにせねばならんのじゃ」 「僕は怪異や風習の話を求めて全国を旅している。その過程で今日みたいな神器を扱う事件に遭遇するかもしれない」 「それがどう儂に関係するのじゃ」 「紺は面白おかしい生活を欲しがっている。僕は神器と化した怪異の詳細が知りたい。利害は一致するだろう」  ううむ、と紺が天を仰ぐ。 「じゃが儂は神器と化したものの元は高貴な存在じゃからのう」  言葉を言い終えるかどうかの瞬間に、くぅっと紺のお腹がなった。 「とりあえず一緒に家へ戻ろう。食べものなら僕が保証するよ」 「うむむ、まあ折口がそこまで言うなら。食べ物を無碍にするわけにもいかんな」  ごほん、といかめしく咳払いする紺を折口はほほえまし気に見つめる。  空の厚い雲の裂け目からは、抜けるように青い夏の空が覗いていた。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!