おとぎ話と少女

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おとぎ話と少女

気がつけば星が消えるように 最初に手を合わせていた人間も消えて 城の中が見知らぬ人間に溢れたころ 私は守り神と呼ばれ 挙げ句の果てには 『守り神が離れたとき災難や不運が城を襲う』という おとぎ話になってしまった そのくらい私と同じくらい人間もいい加減ということかもしれない そんな私は変わらず空を眺めていたが いつの間にかある少女を眺めるようになっていた この城の人間はみな着飾っているのに 少女の姿はこの城に相応しくなかった その理由はもうひとつのおとぎ話がここにあったから 『紅い瞳を持った子供は災難や不運を招く』 人間はそのおとぎ話に惑わされていたが 子供ひとりの存在が この城に災難や不運を招くことなどない この少女は部屋に閉じ込められ 満足な食事も与えられず 部屋に出入りする人間との会話はもちろん 瞳に誰かを写すことも許されていなかった そんな少女を見て好奇心が湧いた この少女は他の人間と何が違うのか こんなにもこの少女を遠ざけるのはなぜか 紅い瞳を持っているという理由だけでは私には納得できなかった 私は好奇心のままに少女を観察した そしてわかったことはとてもつまらないことだった 少女は他の人間と何も変わらない ただ紅い瞳を持って生まれただけ それはおとぎ話がなければ とてもありふれた子供と変わらない存在だった 好奇心が収まった私は少女を他の人間と同じに部類にしようとしていた けれど部屋にいる少女をぼんやりと眺めていたら 少女は嬉しそうに私に話しかけてきた 誰かと話すのは久しぶりだと言う少女には なぜか私の姿が見えるらしい その瞬間にこの少女の部類が明らかに 他の人間とは違うものになった
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