交わりと恐怖

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交わりと恐怖

どんな願いだって叶えるのに 何も願ってくれないから 何もできなかった 誰よりも願いを叶えてあげたい存在なのに 何も願ってくれなかった 私は願った人間の望みしか叶えられない だから 私は少女に願って欲しいと 祈ることしか出来なかった 今の自分は人間と同じだ 何かに祈って願いを叶えようとする 誰よりも優しいからこそ 『助けて』と願って欲しかった 誰よりも強いからこそ 『助けて』と願って欲しかった 私の記憶の中の少女は いつも笑っていた いや 笑ってくれていたんだ 私のいない時間の少女は きっとたくさん泣いていたはずだ だって少女のには涙の痕があった その涙を拭うことも 一緒に感情を分かち合うことも そんなこともできないくらい 私は少女にとって頼りない存在だったんだろうか もしかしたら 見抜かれていたのかもしれない 私は知らないふりをしていた 見ていないふりをしていた 『助けて』と願って欲しいと思いながら 私は少女に何も聞かなかった 言わなかった 怖かった 人間ではない私には何もわからないし関係ないと言われるのが そんなふうに言われるのが たまらなく怖かった 私と少女の間にあるものが 交わることのない何かだと はっきりとわかってしまうのが怖かった でもそんなものはどうでもよかったんだと 今になってわかってしまった たとえ 私と少女が違う何かであっても そんなものは些細なことだ 私と少女と一緒に過ごし 言葉を交わして笑い合った それが全てで事実だ だから私は言うべきだった その心の中にある本当の感情を話して欲しいと その感情がどんなものでも 私は離れていかない ずっと一緒にいる そして願いがあるなら教えて欲しい どんな願いも叶えるから願ってくれと 本当の自分の願いすら叶えられない 私は間違いなくこの世界の何よりも 弱い生き物だ
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