次世代へ継がれる想い

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次世代へ継がれる想い

 晴れ渡る空の下、ひと組のカップルが互いの家族に囲まれ、永遠の愛を誓っていた。  燃えるような赤髪を綺麗にまとめあげ、美しい刺繍が施されたベールをかぶった新婦は、わずかに(のぞ)くアクアマリンを思わせるブルーの瞳を潤ませ、新郎を見つめる。  一方、緊張の面持ちの新郎は、近衛騎士団の濃紺の制服に身を包み、慶次(けいじ)の時にのみつける、いくつもの勲章が、彼の胸元を飾る。いつもは、ボサボサのとび色の髪は綺麗に後ろへと流され、ブルーの瞳は新婦を愛しげに見つめていた。 「サイラス・ナイトレイ。(なんじ)はマリア・ウェストを妻とし、病める時も、健やかなる時も、生涯を通し、愛しぬく事を誓いますか?」 「誓います」  新郎の朗々とした声が、抜けるような青空に響く。 「マリア・ウェスト。汝はサイラス・ナイトレイを夫とし、病める時も、健やかなる時も、生涯を通し愛しぬく事を誓いますか?」 「誓います」  新婦の甘さを含んだ柔らかい声が会場内を包み、参列者の心を温かくさせる。 「では、誓いのキスを……」  新郎がベールを上げ、新婦の額にぎこちなく口づけを落とすと、額へのキスだけではもの足りなかったのか、新婦が新郎の頭に腕を回し、無理やり唇を重ねている。  そんな様子を頭を抱え見つめる新婦の父と、そんな娘を見つめクスクスと笑う新婦の母。そして、呆れ顔で二人を見つめる新郎の義父。 「――――、何をやっているんだマリアは」 「今に始まったことじゃないでしょ。あの娘の性格は、誰に似たのかしら?」 「「絶対に、アイシャだろう!!」」  新郎の義父と新婦の父の声が見事にハモる。 「……心外だわ。わたくし、あの娘ほど、ガッついてはいないわよ」 「いいや、アイシャとリアムの結婚式も似たようなものだったぞ。誓いのキスも、ベールを上げた瞬間、緊張で動かないリアムに焦れて、アイシャからしていたもんなぁ」 「えっ!? あの時、キースは結婚式に出席していたの?」 「あぁ。リアムを選んだアイシャの幸せな姿を、最後に目に焼きつけたかったからな。まぁ、予想外の結婚式にアイシャへの気持ちも、吹っ切れたけどな」 「あれは、リアムが悪いわよ。ベールを上げたら直ぐでしょ。なのにこの人ったら固まって動かないんですもの」 「……それでも待つだろう。普通は」 「まぁ、アイシャだから仕方ないんじゃないかぁ」 「そうだな……」  男二人の小さなため息が聞こえてくる。 「何よそれ……」  頬を膨らませ怒る妻の手を優しく握り(なだ)める新婦の父は、新郎の義父に頭を下げる。 「破天荒な娘だが、よろしく頼む。きっと、夫となるサイラスはマリアに振り回されるだろうが」 「まさか、俺達の子が結婚するとは思わなかったが、これで俺の肩の荷もおりる。白き魔女を迎え入れる事は、ナイトレイ侯爵家の悲願だったからな。サイラスは、兄貴の子だけあって頭も切れるし、剣の腕も俺をしのぐ。人望も厚く、次期騎士団長は確実だ。必ず、マリアを護り抜くだろう。心配するな、あれでなかなかサイラスも一筋縄ではいかん男だ。そうでなければ、狸ばかりの社交界で、白き魔女と認知されたマリアを護ることなど出来ないからな」 「本当、運命かしらね~ まさか、マリアとサイラスが巡り合い、お互いに惹かれ合うなんて、想像もしていなかったわ。そしてあの子達が、私達三人をまた巡り合わせてくれた。キース、ありがとう。……わたくし、今とても幸せよ」 「……そうか。アイシャが幸せなら、それでいい」  アイシャとキース、二人の手と手が重なる。  アイシャとリアム、そしてキース…………  三人は、それぞれの心に宿った温かな想いをかみしめ、初々しい二人の門出をいつまでも祝福していた。 【完】
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