同じ名前のわたしたち

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 『恋が水彩画を続けるかで悩んでいた。応援したい』  「あっ」  思い出がフラッシュバックする。そうだ。確かに悩んでいた。意味がない気がして。このままでいいのか。他にすべきことがあるのでは。そう思っていた。応援したい、だなんて。どうして……。よく見ると、その日の日記には続きがあった。  『好きなことをしている恋が好きだから』  「蓮……」  目頭が熱い。そう気づいた時には、ぽろぽろと涙がこぼれていた。黄ばんだ日記が涙で濡れる。許されたような気がした。好きなことをしても良いのだと、蓮が言ってくれたような、そんな気がした。おこがましくて、自分勝手な解釈なのかもしれない。けれど、少なくとも、確かなことがある。わたしたちは、両想いだった。  「大好きだったよ、蓮」  好きに生きよう。そうだ、高校にあがったら美術部にいこう。怜は確か地元の商業系の高校に通う。蓮は天国に行ってしまった。同じ名前のわたしたちは、もうバラバラだけれど。それでも互いを忘れなければ、それでいいのかもしれない。きっと。  それから、わたしの動く気配がしなかったのか、不審に思った二人が二階に上がってきた。すすり泣きながら日記を抱きしめるわたしを見て、二人はおろおろしていた。それがなんだかおかしくて、わたしは微笑んだ。 完
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