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「恋?」
怜に声をかけられて、はっとなる。いけない。少し悲観的になっていた。悲劇のヒロイン気取りはやめよう。わたしにはきっと、その資格もない。
「掃除も終えたことだし、お参りして終わりにしよう?」
「うん」
わたしたちは両手を合わせて、黙祷する。
「あのさ。恋」
蓮ではなく、わたしに話しかけていた。予想よりも早い黙祷に、わたしは少し驚いた。
「どうしたの?」
「れんが昔、言ったことを覚えている? 蓮の分まで生きなよ、ってやつ」
「もちろん」
「その……無理をしてほしくて言ったつもりじゃないんだ」
わたしは小首をかしげる。どういう意味で話しているのだろう。伝わらないことが歯がゆいのか、怜は声のボリュームを上げて話した。
「水彩画、やりなよ」
「え?」
「勉強ばかりで、自分の好きなこと、ほったらかしじゃん」
「ああー」
そういう、ことか。どうやら怜は、自分の発言を気にしていたらしい。わたしは笑顔を作る。
「今さら絵を描いても、ね」
「だとしてもさ。なんかあるでしょう、勉強以外に。だらだらしてもいいんだよ?」
「それはダメだよ」
許されるはずがない。そんなことでは蓮に合わせる顔がない。わたしは立ち上がる。作り笑いの笑顔を怜に向けた。
「戻ろっか」
「……うん」
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