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同じ名前のわたしたち
暑い。普段、あまり使わないバス停で、実家に向かう高速バスを待つ。お母さんも暑そうに、首すじの汗を服で拭っていた。夏の陽射しが照りつける。行列の前方は、日陰があってうらやましい。わたしは、スマホの暗記できるアプリで、英語の単語を覚えていた。
「あ。恋、来たんじゃない?」
と、お母さんがわたしの名前を呼び、一台のバスを見つめる。時間的にも、どうやらアレに乗るらしい。
重たい鞄を持ち上げて、バスの中に入る。空いている。お盆で人が多いかもしれない、と少しげんなりして待っていたから、嬉しい誤算だ。
席に座り、一息つく。お母さんはバス内にある空調が気に入らないのか、冷房の風向きを調整していた。
高速バスが出発してすぐ、ブウウ、とスマホが震える。メッセージアプリを開くと、同じ名前のれんからメッセージが来ていた。
『今、どの辺?』
怜の家族とは仲が良く、高速バスを降りてからは、車で迎えに来てくれることになっていた。この暑さだ。待ちぼうけは嫌なのだろう。時間調整のために、きっと家族に伝えるのだ。わたしはスマホを打つ。
「ごめん。今、高速バスに乗ったところ」
『了解~。れんも迎えに行くから』
まだ、自分のことを名前で呼んでいるのか。わたしたち、もう中学三年なのに。いじめられたりしないのだろうか。
「わかった。じゃあ後で、れんのところに行くね」
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