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その日、雨が降った。
地面の水が跳ねる。
こんな雨の中を何者かが走っている。
慌てている様子でもあり、急いでいる様でもある。
そのどちらともとれる騒がしさだ。
ようやく止まった先には荷馬車が用意されていた。
会話をしているようだがざぁざあという雨の音で聞こえにくい。
一人は兜や鎧を着ており、どこかの兵士のようだ。
「これからどうする? クローダス領地に走るか?」
一人は宝石を身に付け、少し派手な格好をしているものは商人だ。
「もちろんだ」
商人は受け答えをし、荷馬車の荷を見つめる。
「何のために危険を冒したと思っている。こいつを持っていけば金をたんまり貰える」
商人は話ながら荷が動かないことを確認する。
「クローダス王と敵対するボールス王の嫡子だ。人質として価値がある」
まだ十にも満たない少年が商人の荷としてそこに乗っていた。
顔は殴られたのか腫れ、殴られた拍子に切れたのか血が滲んでいる。
薬で眠らされたのではなく、殴られて気絶していた。
兵士は荷馬車に乗り込み、商人もその横につく。
雨が夜の暗さを一層深いものにしていた。
荷馬車はそんな雨の中を進み、クローダス領へと馬を進め始めた。
………
……
…
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