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皇都へ
俺は。
にこにこと泣かないようにしていたけれど。
実はふてくされていた。
かなりの幸運だぞ、と村の大人たちからかわるがわる言われたけど。
ただ手先が器用だからというだけで、自分の未来を決められてしまうなんて思ってもみなかったし。
正直、料理なんてものに、興味もなかったんだ。
それでも。
父さんのいとこだ、というおじさんが。
馬車で1日かけて皇都から来てくれて。葬式から家を片付ける手配からすべてやってくれた事には感謝していたし。
「覚えてないだろうなぁ。3歳の時に会ってるんだけどな?」
と頭を撫でてくれた時には、ほっとした。
父さんの瞳は、サンコー皇国では珍しい青で。
おじさんも同じ瞳の色だったから、余計かもしれない。
幼馴染たちは、別れを悲しんでくれて。
クソガキどもめ!と俺たちを追い掛け回していた、村に一軒しかない店のオヤジも。
最近、膝が痛いって言ってる村長も。
みんなみんな一緒に村の外れまで見送ってくれた。
「サマートを頼みます」
そう言ってくれた隣ん家のおばさんは。ずっと母さんと仲良くって。
最後まで私がサマートを引き取ると言ってくれたっけ。
両親が、事故で一緒に亡くなっても。
この村は俺の大切な村で。出ていこうなんて考えてもいなかった。
だけど。
ここはたいして裕福な村じゃない。
どうせいつか出稼ぎに出ることになるだろう。それなら、皇都で料理人をしているというこのおじさんについていくほうがいいと・・・俺は村長に説得された。
とうとうおじさんが、御者台の隣へ俺を引っ張り上げてくれて。
馬車が、村を出る。
「落ちるぞ」と心配されながらも、後ろを向いてずっと手を振って・・・。
村の入り口が、みんなが。見えなくなるまで手を振って・・・。
・・・涙をごしごし拭いて、前をしっかり向いて座ると。
おじさんはまた。頭を撫でてくれた。
料理人のおじさんは、口数が多いほうじゃなかったけれど。
俺の・・・たいして無い荷物を運ぶために借りてくれた馬車を御しながら。
俺の父さんとは3つ違いで、よく遊んでもらったこと。
俺の曽祖父にあたる人は男爵であったこと。
2代の代替わりをして、今はおじさんの兄が男爵を継いでいることを教えてくれた。
「貴族」
俺は慌てて背筋を伸ばす。
いとこおじ、と思っていたから、タメグチさえきいてしまっていた。
「・・・跡を継がない次男のオレはもう平民さ。お前と一緒だ」
そうか、お前には血筋のことを言ってもいなかったんだな。従兄弟さんらしいな。
と呟いた”にいさん”とは、俺の父さんのことらしかった。
「村の人も、誰も知らないようだった。
信用してもらうために村長にだけ伝えたけれど・・・。
黙っていてくれるように頼んだから。落ち着いたら、村へ顔を見せに来ような」
・・・村の生活は大変だ。
貴族に対する不満というものは、漠然と。それでも必ず平民の間にあるものだ。
俺にも、ある。
俺が貴族とつながる血筋だと知れば、村には嫌がる人もいるかもしれない。
おじさんは気を使ってくれたのだと思った・・・。
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