8人が本棚に入れています
本棚に追加
畑で
皇女が何を心配しているのか。それはわかる気がする。
けど。
「阿保らしいな」
バカな心配だ。お前が”そんなこと”するわけがないだろ。
我儘で。言いたい放題で、俺に迷惑をかけるクソガキだが。その魔法の力を悪い事に使うはずがない。自分の命を人にやるんじゃないかって方が心配だよ。
皇女はふっと肩の力を抜いた。
「ほんと、サマートって変わってるわ。
わたしはそんないい子じゃないわよ!
誰も、わたしを嫌いになれないことを。ちゃんと利用してるもの」
皇女に対する、周りの反応は。確かに変だ。
誰もが、何もかもを肯定する。
そのくせ、皇女が居ないところでは。あの髪色では高位貴族との結婚は無理だとこき下ろす者が、確かに一定数居るんだ。
「しろが言うには、わたしの魔力は漏れているんですって。
だからそばにいる時には、だぁれもわたしに無理だって言わないの。
城壁から飛び降りてって言っても、はいと言うかもしれないわ。
しろが、わたしの力を調整してくれていなかったら。わたしはとっくにこの国を牛耳ってるのよ?」
なんだよ、傾国の美女のつもりかよ?
つんと顔を上げるけど、そんなに眉が下がっていたら傲慢には見えねぇよ。
ふん、と鼻で笑ってやると。
・・・皇女は叫ぶように言った。
「お嫁になんか行きたくないわ。しかも、他の女性と結婚することがすでに分かっている相手なんて嫌!」
それは少女らしい潔癖さなんだろう。
「でも、わたしは皇女なの。
それが義務だと知ってるわ。隣国との・・・契約として結婚しなくてはならない」
その気持ちが、行ったり来たりしてるから。俺に魔法を見せずにいられなかったのか?俺を怖がらせたかったのか?
さらり、と皇女の長い髪が風に流された。
その髪は焦げ茶色。髪色のせいで。黒髪を最上とする国内では、この皇女には結婚相手が出来ないだろうと言われてる。
だから、陛下は他国に縁を求めただけかもしれない。
隣国との関係は良好だと聞く。政略の結婚など必要じゃない可能性はある。
誰からも溺愛されている皇女。それが彼女の魔力のせいだけとは思えない。
「・・・皇女殿下が、今までに登録したレシピは38。
同じように、料理好きだった歴代の皇族の方々と比べても異様に多い」
俺が。
この皇女の専属料理人と言われている理由は実は。
正式に書き上げ、料理長に味を確認してもらったものを。皇家秘伝のレシピとして、皇女の名前で登録してもらっているからだ。
「殿下はまだ成人前だから。
歴代一位の・・・ええっと、スーカード皇子殿下?」
皇女は俺の言い間違いを正す。
「幼いころから料理好きだった方ね。とうとう結婚なさらなかったそうよ。
シュウカイドウ皇弟殿下。
あの第5厨房を作らせた方よ」
「その皇弟殿下でさえ、生涯かけた皇家秘伝のレシピは100を越してない。
皇女殿下の功績は、すでに充分、威張れるものだと思います」
何を言いたいのか、と。訝し気な顔をする皇女。
「1回くらい」
断ってみたらいいだろ。
皇女としての責任というのなら、充分功績は上げてる。
それを盾にして、皇帝陛下に一度くらい、嫌だと言ったらいけないのか?
皇女はぽかっと口を開けた。
間抜け面だな。
たった14歳かそこらのクソガキ。
「・・・サマート。不敬罪よ」
やっと皇女はいつもの口調で笑った。
それでいいよ。お淑やかな振りなんて、らしくないよ。
「振りじゃないわ!本当にワタクシはお淑やかなんだから!」
ふふっと笑った皇女は。
よし!と何か覚悟をしたようだった。
「ねぇ。サマート。
これからも・・・もし、わたしが悪いことをしたら怒ってくれる?」
俺はほっと息を吐いた。
「もちろんだ!
さぁ、まず足を上げろ!
殿下は、俺の夕食にこっそり数枚いただこうと思った、外側のレタスの葉を踏んでる!」
最初のコメントを投稿しよう!