畑で

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畑で

皇女が何を心配しているのか。それはわかる気がする。 けど。 「阿保らしいな」 バカな心配だ。お前が”そんなこと”するわけがないだろ。 我儘で。言いたい放題で、俺に迷惑をかけるクソガキだが。その魔法の力を悪い事に使うはずがない。自分の命を人にやるんじゃないかって方が心配だよ。 皇女はふっと肩の力を抜いた。 「ほんと、サマートって変わってるわ。 わたしはそんないい子じゃないわよ! 誰も、わたしを嫌いになれないことを。ちゃんと利用してるもの」 皇女に対する、周りの反応は。確かに変だ。 誰もが、何もかもを肯定する。 そのくせ、皇女が居ないところでは。あの髪色では高位貴族との結婚は無理だとこき下ろす者が、確かに一定数居るんだ。 「しろが言うには、わたしの魔力は漏れているんですって。 だからそばにいる時には、だぁれもわたしに無理だって言わないの。 城壁から飛び降りてって言っても、はいと言うかもしれないわ。 しろが、わたしの力を調整してくれていなかったら。わたしはとっくにこの国を牛耳ってるのよ?」 なんだよ、傾国の美女のつもりかよ? つんと顔を上げるけど、そんなに眉が下がっていたら傲慢には見えねぇよ。 ふん、と鼻で笑ってやると。 ・・・皇女は叫ぶように言った。 「お嫁になんか行きたくないわ。しかも、他の女性と結婚することがすでに分かっている相手なんて嫌!」 それは少女らしい潔癖さなんだろう。 「でも、わたしは皇女なの。 それが義務だと知ってるわ。隣国との・・・契約として結婚しなくてはならない」 その気持ちが、行ったり来たりしてるから。俺に魔法を見せずにいられなかったのか?俺を怖がらせたかったのか? さらり、と皇女の長い髪が風に流された。 その髪は焦げ茶色。髪色のせいで。黒髪を最上とする国内では、この皇女には結婚相手が出来ないだろうと言われてる。 だから、陛下は他国に縁を求めただけかもしれない。 隣国との関係は良好だと聞く。政略の結婚など必要じゃない可能性はある。 誰からも溺愛されている皇女。それが彼女の魔力のせいだけとは思えない。 「・・・皇女殿下が、今までに登録したレシピは38。 同じように、料理好きだった歴代の皇族の方々と比べても異様に多い」 俺が。 この皇女の専属料理人と言われている理由は実は。 正式に書き上げ、料理長に味を確認してもらったものを。皇家秘伝のレシピとして、皇女の名前で登録してもらっているからだ。 「殿下はまだ成人前だから。 歴代一位の・・・ええっと、スーカード皇子殿下?」 皇女は俺の言い間違いを正す。 「幼いころから料理好きだった方ね。とうとう結婚なさらなかったそうよ。 シュウカイドウ皇弟殿下。 あの第5厨房を作らせた方よ」 「その皇弟殿下でさえ、生涯かけた皇家秘伝のレシピは100を越してない。 皇女殿下の功績は、すでに充分、威張れるものだと思います」 何を言いたいのか、と。訝し気な顔をする皇女。 「1回くらい」 断ってみたらいいだろ。 皇女としての責任というのなら、充分功績は上げてる。 それを盾にして、皇帝陛下に一度くらい、嫌だと言ったらいけないのか? 皇女はぽかっと口を開けた。 間抜け面だな。 たった14歳かそこらのクソガキ。 「・・・サマート。不敬罪よ」 やっと皇女はいつもの口調で笑った。 それでいいよ。お淑やかな振りなんて、らしくないよ。 「振りじゃないわ!本当にワタクシはお淑やかなんだから!」 ふふっと笑った皇女は。 よし!と何か覚悟をしたようだった。 「ねぇ。サマート。 これからも・・・もし、わたしが悪いことをしたら怒ってくれる?」 俺はほっと息を吐いた。 「もちろんだ! さぁ、まず足を上げろ! 殿下は、俺の夕食にこっそり数枚いただこうと思った、外側のレタスの葉を踏んでる!」
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