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皇都で ① (完結後)
そうと決まれば!
俺がそう気合を入れたタイミングで。
オレンジ頭はふふっと笑った。
それなりに時間が過ぎたので、通用口から帰っていく者も増えてきた。
珍しい髪色のイケメンだもの。ちらっと・・・いや、じーっと見ていくメイドや下女も多い。
しかし、彼は一切そちらは気にせずに。
「これを」
と綺麗な刺繍の施された布の袋を差し出してくる。白いリボン。大きさは、そう。あの白猫くらい。
?
袋の口を開け、覗き込む。・・・中にあるのは、折りたたまれたただの布に見える。
だが、何か感じる。
俺が引き出そうとすると。その手を握るように止めてきた。
「ベビーベッドのシーツくらいの布だ。15枚入ってる。
・・・これで、手に入れた食材を包んでくれ」
オレンジ頭はそう、耳元で囁いてくる。
魔法をかけてある訳か。食材の痛みを抑える、あの魔法が。
「彼女も・・・一緒だったのか」
袋を覗き込んで。つい、その布に笑いかけてしまう。
アンナ。これはアンナの魔法を施した布なんだな。
オレンジ頭は俺の言いたいことを理解してくれて。
「・・・あぁ。先日学園を卒園され、侍女として我が国にいらしたばかりだ」
なんだ、アンナもずっと皇女と一緒に居たわけじゃないのか。
少しほっとしてしまう自分が情けない。だけど、仲間外れにされた感が強かったんだよ。
オレンジ頭は、まだ必要ならこの倍の数を預かってきてる。と言う。
「預かって。・・・つまり最初から」
俺は・・・食材の手配も、料理を作りに行くことも。断らないと思われていたんだな。
「あぁ、サマートなら来てくれると・・・」
言いかけた彼は。
「そう俺は信じていたよ」にこやかに少し大きな声で胡麻化した。
”来てくれる”と言っていたのは皇女だろう。でも今はその名前を言えない。
通用口から出てきたメイドがこちらの方へ近寄ってきている。この先の小道を通って帰るのだろう。
帰る人間はこれからも増えてくる。ここで話しているのも良くないな。
こそこそと小声でいるのだって、不審に思われるかもしれない。
「皇都へ着いたのは今日か?」聞こえても問題ない話をふる。
「あぁ、到着して数時間だ。すぐに宿を取って、ちらりと商店街を確認してから、ここへ来た」
名前をきけば、それなりに上等な下位貴族や大商人向けの宿泊所。
「じゃ、少し邪魔してもいいか?」
彼は、嬉しそうに微笑んで。さっと立ち上がり。
「もちろんだ!」と俺の手を取って立たせる。
・・・そりゃ、お前のように鍛え上げてはいないけど。立たせてもらうほどには弱くない。なんだ、こいつ。とムッとしながら、ふたりで宿屋へ向かった。
この辺で買える食材は俺が、とオレンジ頭が言ってくるので。
商店街のほうを通ることにする。少しだけ遠回りにはなるけれど、良い品を売る店を教えておかないとな。
オレンジ頭は、にこにことあの店はなんだ、この民芸品はお土産なのか?と質問ばかりする。なんだか浮かれてる?こいつ結構旅好きなんだろうか。この国にしかない装飾品なども覗き込んでいる。
自国の物を褒めてもらうのは嬉しい。聞かれるままに返事をした。
・・・知ってる店員がこっちを見ていた。俺はこの商店街でそれなりに顔が売れてる。
だけど。
挨拶しようとしたのに、すぐに目をそらされて。
?
不思議なことに、他の店のやつらも。・・・誰も声をかけてこなかった。
なんだかびっくりした顔で見られただけだ。・・・?どうしたんだろうな。
いくつかの良店を教え、宿の部屋で食材のリストを確認した。
「丸を付けた食材は5日目に購入してくれないか。
数日しかもたない食品だ」
「わかった。
早く買い付けて、もう傷んだはずだが、と。不審に思われても困るからな」
理解が早くて助かる。
「黒丸をつけている分は俺が用意する。それ以外は日にちと店を指定したメモを作るよ。購入を頼めるか?」
「わかった。店の指定は助かる。
リストをもう1部用意しよう。手配できたものにはチェックを入れて、すり合わせることにする。漏れが無いように」
この見た目で堅実な奴なんだな。・・・見た目は関係ないか。
寝室とバスルームのついた広めの部屋。
これを従者に用意できる経済力のある家なのだ、と。皇女の嫁す家の事を考える。
やはりここでも、名前は言えない。
「・・・お元気なんだな」
ついぽろりと出た言葉に。やっぱり彼は勘がいい。
「あぁ。とてもお元気だ」苦笑とともに返事が来た。苦笑される皇女ってどうだよ。お前他国でもあの調子なのかよ?!
「・・・俺は。あんな・・・抱き着いたりとかせずに。
普通に、手紙を預かっていると話しかけた方がいいと思ったんだよ。実際何度もそう申し上げてみた」
オレンジ頭はぽつりと言いやがる。
「そうだよ・・・な・・・あ?あー」
俺の返事はだんだん落ち込む。
いやぁ、帰り道にこんなオレンジの髪色のイケメンに話しかけられたら、速攻無視だな。
悪くしたら、皇宮へ駆け戻って変な奴に声かけられた!って門番に訴えてるぜ。・・・クソガキ・・・。俺の事よくわかってやがる。
「・・・サマートはすぐ顔に出るんだな。何考えてるかわかる」
机の向こうで相手はふんっと鼻で笑いやがった。
ムッとはしたが「いや。・・・その。た、確かにあの状況じゃ無ければ、話は聞いてないかもしれん」
こいつがほうっと安堵したことも覚えているから「・・・なんか。悪かったよ」謝った。
「いや。これも面白いと、今は思ってる。
・・・俺の性格も、あの方はお見通しだという事さ」
?
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