皇都で ② (完結後)

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皇都で ② (完結後)

 「いや。これも面白いと、今は思ってる。 ・・・俺の性格もあの方はお見通しだという事さ」 ? オレンジ頭の返事はなんだか不穏だった。 なぜだか、その後。 服にお茶をこぼされて。部屋の風呂と彼の服を借りた。 ・・・ちくしょう。デカい。細身に見えるのに鍛えているからなんだろう。 ぶかぶかの服を着せられて。 それが面白いのか、俺の家の場所を確認したい、とついてきた彼は。俺の肩を抱いて歩いてる。 「サマートは結構細いんだな」 なんだよ!腹が出てるから結構太いと思ってたのかよ。 「悪かったな。腹だけ出てて」気にしてんだぞ。ぶすっとそう言うと。 「出てないよ」と耳元でくすくす笑いやがった。この距離の近さはなんだ? ・・・友人だ、とまわりに思わせたいんだろうか。隣国ではこれが友人の距離なのか?我が国とは文化が違うんだなぁ。 こんな態度は酔っぱらった時くらいだ・・・そうだな、全くしない。というわけでも無いか。 「服や下着は洗濯に出しておくから」 あ。そのまま置いてきちまった。 「悪い、ありがとな」と言う俺の返事は。近くに居た女性たちのキャーという悲鳴にかき消された。 ? 俺が用意する、と簡単に請け負ったものの。 皇女が要求したいくつかの食材には、手に入り辛いものがあって。 帰って早速おじさんに手配を頼む。コネは使ってなんぼ、だ! 「旅に出るのに食材?」 ・・・あ、そりゃそう思うか。しまった。言い訳を考えてなかった。 「いや・・・他国の料理を勉強しようと決めたんだ。 それで・・・ええと。 ある家で料理人を探してるもんだから。それで・・・ええとそこに。しばらく滞在させてもらおうかと思って・・・。 もちろん、皇家のレシピは使わない。 それでも、この国の料理は作ってやりたいんだ」 おじさんは目を見開いた。 ・・・なんだか腑に落ちない顔をしていたが、食材の手配は約束してくれた。 皇家のレシピは門外不出だから使わない、という建前。 ・・・皇女本人が作れと言えば別に構わないだろうし。きっとあのクソガキは作れと言うに違いないけど。 翌日も、その翌日も。 オレンジ頭は通用口で、仕事が終わるまで俺を待っていた。 2日目も一緒に宿まで行って、食材とリストの確認をしたが。 まさか3日目の今日も来るとは思ってなかった。 「毎日チェックしなくてもいいんじゃないか?」 と聞いてみたが。 「すり合わせは大切だ。 それに、俺には食材を見る目が無いからな」 そう言いながら、ぴたりと横に並んで歩き始める。 「いや、そんなことも無いぞ。 その根菜はひげ根の位置がまっすぐだ。良いのを選んでるよ」 この2日、俺の帰りは遅めの時間で。もう商店街はほとんどが閉店してる。暗くなる前に店員を帰すのが決まりだから。 オレンジ頭は、俺のメモを見ながら。店が開いてるうちに買い物を済ませてくれていた。 今日はそのまま俺を迎えに来たという。長い根菜が、彼の持っている大きな紙袋から少し顔を出してる。 俺はそれを引っ張り出しながら、そう言った。 褒められて嬉しかったのか、彼は「ありがとう!」と飛びついてきた。 うん、やっぱりこいつは距離感が近い。その上・・・。 取り出した根菜はするりと取り上げられる。 またかよ。それくらい俺にも持たせろよ。 宿までの道すがら、荷物を半分持つと言っているが。 一度も渡してもらえない。 俺はそんなに(ちから)が無さそうに見えるのか?ちょっと不満だ。 4日目にはまた、少し早めに帰れた。 また待っていたオレンジ頭と一緒に。 観光客には売らない店主がいる店へ、閉店ぎりぎりに押しかける。 じろじろと店主(オヤジ)はオレンジ頭を見ていたけれど。食材は俺が使うのだ、と言うと渋々ながらも売ってくれた。 「あの店主も、俺を睨みつけてたな」 店を出て、しばらく。オレンジ頭はぽそりと言う。 「あー。悪いな」我が国は閉鎖的だ「他国の人間を嫌うとこがあってさ。・・・他にも、誰かいたか?」店主”も”と彼は言ったから「みんな、悪い人ではないんだが」 「・・・サマートは、本当に特別なんだな」くらい感情を感じたと思ったのに。横を見ると彼はにこにこと笑っていた。 「今日、小さな女の子にサマートを連れて行かないで!って言われたよ」 俺が家を出ていく話は、広まってるらしい。 「花屋の子か」先年父親が亡くなって、余計に俺に懐いてくれてる。 「・・・違うな」 じゃ、肉屋の子かな・・・違う?魚屋?雑貨?あぁ、メイドをしてる未亡人のとこの・・・。 「サマートじゃなかったら、俺通報してるかもしれん」 何を? 俺が首を傾げると、相手はまたも抱き着いてきた。 「お前、本当に人たらしだな。オヤジ達とか、幼女とか」 「俺は妙齢の女性に好かれたいよ。離せ」 「いやぁ。仲良しの振りしとかないと。また女の子に叱られるから」 それもそうか。と俺は相手の背中へ手を回した。 「・・・結構な量になってるよな」 俺が手配した食材はおじさんの家に。オレンジ頭が手に入れたものはオレンジ頭が泊っている宿に。とりあえず保管しているが。 いいかげんどちらも、かさばり始めてる。 食材と、俺の大事な包丁中心の商売道具一式に。食材。あとはまぁ、俺の適当な服に日用品。食材。・・・それに食材。 馬じゃ無理だな。馬車がいる。・・・あの食いしん坊のせいだ。 馬車は、こちらで用意する。そうオレンジ頭は言ってくれて。 「朝一番で出発しようと思うから、前日つまり明日の夕方に積み込みに来るよ」と提案された。 「それなら、積んだらそのまま出発で良くないか?」 皇都近隣の治安は悪くない。暗くなる寸前まで先へ進めるだろう。 「・・・宿をとることを考えれば、その日に出発は無理だ」 彼は立ち止まってそう言う。 宿?俺は相手へ向き直る。 「お前、やっぱり貴族なのか?きちんとしたベッドじゃないと眠れないのか?」 普通に確認のつもりだったのに、彼はむすりとしやがった。 「サマートの事を考えての旅程だ!」 おい。声がでかいよ。 大通りの真ん中だ。 オレンジ頭は、はっと口を押さえるけど。あちこちで片付け中の店番が、こっちを見て笑ってる。こいつほんと目立つんだよなぁ。 「皇都育ちの料理人に、野宿など無理だろうが」 声が大きかったと反省したのか、真正面から頭を傾げてくる。耳元で囁くなよ。 あー。同僚たちなら有りうるな。貴族家で育った人ばかりだから。 おじさんだって、土の上で寝たことはないだろう。だけど。 「・・・クソガキから聞いてないか? 俺はド田舎育ちだ。 野宿など気にしないし。いくら魔法の中とは言え、食材の事を考えたら日程も出発も早い方がいい」 こそこそと小さな声で言ってはいるけど。まさか”殿下”と呼ぶわけにいかず。もちろん御名を呼ぶわけにはもっといかない。 それで心に従ってクソガキと言ったんだが。相手にはめちゃくちゃ睨まれた。 「向こうで呼ぶなよ。阿呆坊ちゃんから絞められるぞ」 阿呆坊ちゃんというのが、皇女の婚約者らしい。お前の方だって、かなり不敬な綽名だと思うぞ?仕えてる家のご令息なんだろう? 「大丈夫さ。まさかいくら俺でも本人には・・・」声に出しては、言ったことが無い!はずだ。 ・・・たぶん。
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