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皇宮へ
1泊2日の、南への旅は・・・楽しかった。
村から出たことが無かった俺には、街道の横に咲いてる花までが物珍しくて。
あの花の名前は?あっちの建物は何?と質問ばかりしていた。
ひとつひとつ丁寧に教えてくれるおじさんはとても物知りで。
・・・父さんみたいだな、と思ってた。
ゆったりとした皇都への旅は、おじさんの気遣いで。本当はとても忙しいのに、5日間も俺の・・・葬式の事もあったから俺たち家族のために休んでくれたのだと後から知った。
村から。ずいぶん遠いんだなぁと落ち込んだ俺にも気づいてくれた。
「乗馬を教えてやろう。馬で飛ばせば、村まで半日だぞ」
宿で夜中に悲しくなったことにも気づいてくれた。
たった今まで鼾をかいていたのに「ほら、飲め」と水のグラスを差し出してくれた。泣いてたと思われたくなくて、寝ぼけたふりをしたけど。何も言わずにいてくれた。
・
皇都は。
・・・言葉にできなかった。俺はただ、びっくりして何もかもを見上げた。石造りの建物だって、こんなにたくさん見たのは初めてだ。
「国で一番の都なんだから、そんな風に驚くのが当然さ」
ぽかんと開いてた口を、クスリと笑われて。慌てて謝った俺におじさんはそう言ってくれた。
おじさんの家だ。と言われた家は、俺の家の2倍の大きさで。
おじさんはここにひとりで住んでいるのだという。
通いのお手伝いさんがいるだけだという。
俺は、ここまで来てやっと。おじさんの事を聞く気になったのだ。
やっと、両親はもういない。ここで頑張らなければいけないと、現実を見れるようになったのだった。
小さな店の料理人だと思っていたおじさんは。
皇宮勤めだった。
「皇族の方々に食事を作るところだから。
身元のしっかりした者という条件が第一なんだ。
一緒に勤めている者は貴族の血筋を持つ平民が多い」
おじさんは、後継者を育てたかったらしくって。
でも。結婚は、面倒だと思っていたらしくって。
俺に芋の皮をむかせて。
「おお。やっぱり器用だな。従兄さんも器用だったからなぁ」
そう言った。
母さんの手伝いをさせられていただけだ。村の子なら、誰だって俺くらいの事は出来るんだけどと思ったけれど、黙っていた。
それから2年近く、おじさんの家に住んで。勉強させられた。
読み書きは母さんから習っていたけれど。おじさんが呼んでくれた家庭教師には汚い字ですね。と言われた。
それでも、先生との相性は良かったらしい。俺の雑学知識はどんどん増えた。
おじさんに披露して、顔を顰められたこともある。
「その話は歴史じゃなくて、伝説のたぐいだ。
・・・全くあいつは何を教えているんだか」
先生は、おじさんの友人らしかった。
乗馬も教えてもらった。初めて村へ帰る時には、おじさんが一緒に行ってくれた。
2回目はこっそり抜け出そうとして見つかって、怒られた。でも、3回目にはひとりで村まで行くことを許してくれた。
成人ではないけれど。
見習いとして雇ってもらえる年齢になると、おじさんは皇宮へ連れて行ってくれた。
「見習いとはいえ、正式に契約が結ばれる。給料も出る。
包丁さばきも上手になったし。行儀や所作も・・・取り繕えてる。
これから頑張ろうな」
おじさんはまたも頭を撫でる。
・・・そろそろ、子ども扱いにムカッとしていたけど。言わなかった。
俺は大人だからな。
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