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第8話 花子さんの相談事
「メリーさん、咲子さん! 来てくださりありがとうございます!」
狭いところですが。トイレの花子さんが、女子トイレの扉を開けてやって、笑顔で出迎えてくれた。
花子さんは、口裂け女である私(咲子)や、メリーさんと違って、移動できない怪異だ。なのでこうやって、私たちが彼女の住処に赴くわけだ。
「はい。欲しいって言ってたマイク」
「まあ! ありがとうございます、メリーさん!」
「なにー? カラオケでもするわけ?」
私の言葉に、あのね、と花子さんは頬を抑えて言った。
「私、VTuberデビューすることになったのです!」
「なんて???」
……いや、本当に、なんて???
「あ、アマチュアでは一ヶ月前から行っていたのですが、この度事務所と契約することになりまして」
「事務所と契約っ!?」
なに!? VTuberにも事務所とかあんの!? それもう芸能人じゃん!
「へえ。どこの事務所?」
「『四谷事務所』です!」
「聞いたことないわね……新しい事務所かしら」
パパパとスマホ検索をかけるメリーさん。さすが情報強者。
「でも、私で四期生らしいのですよ」
「それ本当に大丈夫なやつ? 騙されてない?」
「大丈夫です! ちゃんと契約書読みましたし、なんなら稲荷さんに確認してもらいました!」
稲荷は、我々妖怪を人間の法に適用させてくれる弁護士だ。やつがチェックしているなら、まあ大丈夫か。
「それでこの度、VTuberとして新たなT〇itteアカウントを作ることになりましたの。良かったらフォローしてくれるとありがたいですわ」
「へえー。教えてくれる?」
これです、と花子さんがスマホを出す。
見ると、ヘッダーとアイコンには、桜色のふわふわな髪をした、アニメチックな和服を着た女の子がいる。なるほど。これが花子さんのVTuberとしての外見ってことね。
「って、ハンドルネーム!!!!!」
Twit〇erのハンドルネームは、『便所姫』になっていた。
「ああああんた、これでVTuberやる気なの!?」
「さすがに姫は痛いですか……?」
「そこじゃない!!」
便所だよ便所!! いやこれ以上ないほどインパクトはあるけど! 偶像としてどうなのよ!!
と言っていると、「そうよ」とメリーさん。
「今は姫より令嬢の方が流行りよ。便所令嬢でいきましょう」
「何提案してるのアンタ?」
しかも韻踏んでるし。
■
「それでですね。新たにT○itterアカウントを作ったのですが、これからデビューまでにフォロワーさんを獲得しないと、VTuberとしての契約はなかったことになるんです」
「え、そうなの!?」
デビュー前に契約を取り消されるなんて、中々シビアな世界だ。
「なので、よかったらフォローして欲しいのですが」
「それは構わないけど……デビューまで何人必要なわけ?」
「444人です」
「ファー!!!!?」
多くない!?
「しかもデビュー前に、このハンドルネームを名乗ってVTuberとして活躍するのは禁じられているので、どうしたらフォロワーさんが増えるのかわからなくて」
「無理難題ね」
「今まで使っていたアカウントで活動するのはOKなのですが……」
「なんか本当にその事務所、大丈夫???」
『なるほど。話は聞かせてもらった』
機械を通した、よく知っている声が女子トイレに響く。
メリーさんのスマホには、柳田が映っていた。
「あれアンタ、いたんだ」
『リモートだがな』
どうも研究室から電話しているらしい。
『さて花子さん、あなたはゲーム実況VTuberとして活躍してはいなかったか?』
「はい、そうです。ご存知だったのですか」
『御手洗花子の名前で出てきた』
ネットで本名使うなよ、花子さん。
『そこでだ。――咲子、メリーさん! 御手洗花子の友人AとBとして、あるゲームを実況してもらう!』
「げ、ゲーム?」
花子さんとメリーさんは目を丸くしている。
が、多分ろくなものじゃないだろうな。
はたして柳田が提案するゲームとは!
次回へ続く!
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